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若ヴィクへの思いが断ち切れない勇利はヨーロッパ選手権のあの日から、夜毎おのれの欲望に忠実な夜を過ごしていた。

自分より小さく若く美しく非力なヴィクトルをオカズにすることになんの罪悪感もなくなった頃、四大陸選手権がやってきた。

四大陸選手権SPの結果を受け、察しのいいヴィクトルは勇利の自堕落な夜の営みを察知し糾弾する。しかし無情にも夜毎失われ続けた勇利のテストステロンや亜鉛、アルギニンという大切な栄養素は戻ってこない。

「俺はそんなところまでコーチしなきゃいけないのかい?」

ヴィクトルの冷たい視線に現実に引き戻された勇利は気持ちも新たに世界選手権へ向け、己に禁欲を課すのであった…!!



・:*三☆・:*三☆・:*三☆

※未読の方はキャプションのあらすじをご覧下さい。


世界選手権。
ヴィクトルは世界の期待を裏切らず6連覇を果たした。誰もが驚きつつ、しかし誰もが納得する結果だった。ヴィクトルはやっぱり最高だ!
そして僕は銀メダル!信じられない…こんなことが起こるなんて!
僕の下にいるユリオは心底悔しそうだったけど、ヴィクトルとやってきたことが間違いじゃなかったと証明された瞬間だった。

「ユーリ、嬉しそうだね。銀メダルなのに…」
「うん。だって僕が世界選手権で銀メダルを獲るなんて、去年の僕からじゃ考えられないよ。きっと誰も予想してなかった。夢みたいだ…っ」

表彰台の上で自身の世界選手権6連覇を喜びつつも、ヴィクトルはコーチとしては不満の残る結果だったらしい。キスクラ説教タイムもいつものようにあったし、SPではパーソナルベストを更新したが、FSの得点は僕がGPFで叩き出した歴代最高得点には10点近く及ばなかった。
復帰後初の世界選手権とあって、ヴィクトルの総合得点も去年のものと比べれば、これまた10点近く低くなっている。

それでもSPでユリオに更新されてしまったSP歴代最高得点を塗り替えてくるあたり…さすがヴィクトルとしか言いようがない。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


四大陸選手権。
金メダルはJJに取られ、僕はまたしても銀メダルを首から下げていた。銅メダルはユリオの友人のオタベック。
まぁ、下馬評どうりというか、なんというか…。
ちなみに、ハッキリ言っておくが、僕が仮に禁欲していたとしても四大陸でJJに勝てたかどうかは分からない。なぜなら勝敗を左右するのは成功率の低い4回転フリップだからだ。

禁欲したからといって4回転フリップが飛べるというわけでもないだろう。ヴィクトルだってそれが分かっていたから、キスクラ説教タイムでも敗因の一つに禁欲しなかったことを上げなかったのだ。
それにあくまで本番は世界選手権。

僕たちはこの結果を受け、4回転フリップの改善に全力で取り組んだ。
四大陸の時点で僕の4回転フリップの成功率は30%まであがっていたのだから、あと1ヶ月の追い込みで45%までは行くだろうとヴィクトルは見込んだのだ。

正直、いまさら僕の技術面をとやかく言っても始まらないのだが、実際問題として僕のジャンプは質が良くない。この点は4回転時代を生き抜くスケーターとしては致命的と言えるだろう。ハッキリ言ってしまえば、僕の4回転はどのジャンプを取っても基礎点のみで加点がつかないのだ。
一方、JJやユリオは…というと、4回転を飛べば必ず加点がつく。特に分かりやすいのはユリオだ。
諸岡アナの解説時の言葉からも分かるように、ユリオのジャンプは高さと流れのある美しいジャンプで飛べば必ず加点がつく。しかも片手を上げるという独創性を取り入れたコンビネーションまでつけてくるのだから、GOEはジャンプに関しては基礎点に+3される。加えてその質の良い四回転ジャンプを後半に集中して持ってくるのだから、基礎点が1.1倍になり、GOE+3と合わせるとユリオが何の苦もなく飛んでいるあのジャンプ達がどれほどの点数を叩き出しているのかがわかるだろう。

結論からいおう。
僕が四回転フリップを後半に成功させたとしても、GOE+0のため得点は13.53だ。
一方ユリオが四回転トーウループを前半に飛んだ場合、前半にもかかわらず基礎点10.30にGOE+3の合計13.3点をもぎ取っていく。

事の重大さがお分かりいただけるだろうか?
前半にトウループ単独で13.3点をユリオはもぎ取っていくのだ。

もっと言おう。
僕が後半に四回転トウループを飛んだとしよう。僕だってクリーンに決まればGOEが付く。ただし+1点がいいところだ。得点は12.33点。
一方ユリオがトウループでこの得点を上回るために「いつ」「どこで」ジャンプを飛べばいいのか…。

前半にトウループを飛べばユリオの場合は、基礎点10.3にGOE+3の合計13.3点を叩き出す。

いま引き合いに出したのはすべて単独のジャンプだ。試合中はこれにコンビネーションを交え、ユリオはどんどん得点を伸ばしていく。

そんな絶望した顔しないでくれないかな…。僕、今回ユリオを抑えて銀メダルだよ!??
すごくない!??
この時点で凄くない!??

あの去年のボロ負けだった僕が!世界選手権で銀メダルだよ!?
もっと喜んでよ!

ヴィクトルとの特訓によって、僕の四回転フリップは成功率が上がり今大会ではSP・FSともに成功。ジャンプのみの得点ならユリオに負けてるけど、フィギュアスケートはジャンプだけじゃないんだよ。ヴィクトルだっていってただろ!プログラムコンポーネンツで得点を稼ぐのが僕の戦い方だって!

フィギュアスケートはね、ジャンプ・スピン・ステップからなる構成要素を使って、自分の選んだ音楽の曲想を表現する競技なんだよ。トップスケーターともなれば、4回転ルッツやフリップ、ループと、高難度のジャンプを飛ぶ選手が多くなるけど、ジャンプ以外の要素を取りこぼさないことが勝利への鍵なんだ。
スピン、ステップや表現力。他の要素も優れていれば大きな武器になる。

ジャンプの技術を今更飛躍的に高めることはできないけれど、だからこそヴィクトルは僕の可能性に賭けてくれたんだ。

『俺が勇利に惹かれたのは音楽さ。その身体が奏でるようなスケーティングそのものだ。
それを生かした高難度のプログラムを作りたい。俺にしか出来ない、そう直感したんだ』

そしてヴィクトルは僕に四回転フリップという最終兵器までくれた。
ジャンプが冴えない僕だけど、他のどのジャンプを飛ぶより後半に飛べば基礎点だけでも僕にとって大きな武器になる。
おかげで世界選手権では4回転フリップを成功させ、僕はユリオに競り勝った。
そりゃもちろん、GOE+3を叩き出したヴィクトルの4回転フリップに比べれば、基礎点なしの僕の4回転フリップは精彩を欠いたことだろうけど…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


今シーズンの世界選手権は、得点だけを見れば昨シーズン程のハイレベルな戦いは見られなかったかもしれない。だけど今シーズンの世界選手権にはドラマがあった。
きっと世界選手権の長い歴史の中でも、これほどのドラマがあった年はないだろう。

リビンクレジェンドの復活と、世界選手権6連覇の偉業達成。
引退間近の冴えない日本のスケーターの快進撃。
鮮烈なシニアデビューと共に世界選手権3位の座に輝いた新時代の到来を予感させる若き才能。

何もかもがドラマチックで、すべてが輝いていた。
こうして僕のスケート人生で最も濃密で、最も熱いシーズンが幕を閉じた。あとはアイスショーに参加したり、イベントに呼ばれたりしながら、少しずつオフシーズンへと移行していく。
ヴィクトルは国別対抗の国際大会があるから、この後も一カ月間は気が抜けないだろうが、「新生ヴィクトル・ニキフォロフ」に沸き立つ世界は、きっと彼を放っておかないだろうから、氷を降りてもオフシーズンはすべて陸上での仕事で吹っ飛ぶのかもしない。

ちなみに今大会4位だったクリスは、この後、即オフシーズン入りするのだと語っていた。
さしものスロースターターも今年の激戦にはシーズン前半からギアが入り、気力体力ともに消耗し、世界選手権にピークを持ってこれなかったらしい。きっとヴィクトルに振り回されて一番被害をこうむったのは彼だろう。

「老体にこの激戦はキツイよ。もう南国で疲れた身体を癒してくる」

とか僕に零していたのと同じ口で、彼がヴィクトルに抱き付きながら「お帰り、僕のミューズ」と言っていたのを僕は忘れない。
それ僕の婚約者!
それ僕のヴィクトル!!
それ僕の神様だから!!!

そして忘れてはいけない今シーズン注目株だったJJは、予想外なことに四大陸選手権がピークだったらしく今年の世界選手権では失速し300点超えはしたもののクリスに届かず5位に終わった。
そんな彼にヴィクトルは直接声をかけることはなかったけれど思うところがあるらしい。GPFの時同様、唇に手を当てながら黙ってJJの演技を見守っていたのだが、

「彼はこの先苦労するだろうね。いまの調整の仕方じゃ、シリーズ後半までモチベーションを保つ事はできない。試合にも緩急をつけないと。
まぁ、性格的に難しいんだろうけどね。だからこそ苦労する」

…と初めてJJについて評価していた。
ほとんど接点がなく、また年齢も4歳離れておりキャラ的にも仲良くなれそうもない僕だったが、同じ大会を戦い彼の実力だけは知っていたので少しばかり老婆心というやつが湧きそうになったが、彼には家族や素敵な恋人。そして彼を応援するたくさんのファンがいる。放っておいても彼なら持ち直してくるだろう。
それになにより、僕は四大陸でJJに金メダルを取られ銀メダルに終わっている。僕に応援や心配などされずとも彼は金メダルを獲れる男なのだ。

僕は人の心配よりも、まず自分の心配をするべきだ。

世界選手権でも銀メダルに終わってしまった僕に、ヴィクトルが例の表情をまったく読ませない貼り着いた笑顔で迫ってくる。

「ユーリ、これで銀メダル何個目?ユーリはもしかして銀メダルが好きなのかな?ふふふ」

いつものようにマッカチンティッシュも健在で、笑顔で僕をディスってくるヴィクトルにたまらず僕は叫ぶ。

「次のシーズンが本番だから!!」
「だよねー、だって来シーズンはオリンピックだもんねぇ」

そうなのだ…。来シーズン、オリンピックが僕たちの元にやってくる!

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四大陸選手権、FP前日の公開練習中。僕はヴィクトルに公衆の面前で、とんでもない爆弾発言をされてしまった。

「ユーリもしかして禁欲してなかった!?」
「ひっ…」

ヴィクトルの言葉に、フェンス越しに彼から受け取ったワンタッチマグボトルを握りつぶす勢いで全身に力が入り過剰反応する僕。
普段の僕ならヴィクトルの言葉に慌てふためき大騒ぎし、ジタバタと両手を振り回し反応しただろう。しかし図星を指された僕はといえば、ただただ固まるしかない。否定することも肯定することも、愛想笑いを浮かべることも「も~~~、やめてさヴィクトル~。恥ずかしかーーーー!!!」と軽く流すこともできず、ただただフェンスを挟んだ氷の上で固まることしかできなかった。

四大陸選手権、SP。僕は四回転フリップで転倒し序盤から点数が伸び悩んでいた。
四大陸にはクリスやユリオはいないが、JJやオタベックがいる。JJはGPFが嘘のように持ち直し、今大会では完全復活といっていい状態に仕上がっていた。加えてオタベックも世界選手権へ向け調整が進んでいるようで各種大会に出るたびにパーソナルベストを更新し続けている。
金メダルが獲りたいのなら、僕はFSでGPF並の滑りをしなければならない。

にも拘らず僕の滑りは悪くはないが良くもない状態を維持したまま、今日という日を迎えてしまった。要はエンジンがかかっていないのだ…。

「俺はそんなところまでコーチしなきゃいけないのかい!?」

項垂れて「ごめん」としか言えない僕に、ヴィクトルはとうとういつかのように額に手を当て、天を向き溜息をこぼした。

こういうの、自業自得っていうんだよね。知ってる…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


僕はここ20日ばかり禁欲とは無縁の、欲望に忠実な日々を送っていた。

本来の僕はそれこそ放っておけば2週間以上平気で自慰などせず過ごるほどに淡白な人間だ。それがヴィクトルとの同居により週に一度意識的に抜かなければムラムラしてしまう体質になり、ヴィクトルとの関係の進展を望む頃には週に何度か自身を慰めるようになった。しかしヨーロッパ選手権三日前の夜に、僕はヴィクトルに説教され、自身が置かれた状況を思い出し、心も新たに四大陸選手権へ向け禁欲生活を始めたのだ。
だというのに、僕のその決意も虚しく、僕の禁欲生活は三日で崩壊した。

僕が今まで息をするように行ってきた「大会前一カ月間の禁欲生活」はヨーロッパ選手権の日を境に崩壊したのだ。ヴィクトルのせいで!!

僕は確かに童貞だ。だがしかし童貞だからこその「夢」や「妄想」というものがあり、僕の「夢」や「妄想」のすべてはヴィクトルへと向かっていた。
もう僕が何を言いたいのか分かるだろう。
ヨーロッパ選手権でみたヴィクトルは、僕にある一つの光景を思い出させたのだ。それは僕の初恋の相手、若き日のヴィクトルだ!

キラキラと輝く銀の髪をなびかせて氷上を自由に駆ける僕の天使!

「初恋の相手は特別」というが、まさにその通りだ。
僕はヴィクトルを愛しているが、髪の長いあの頃のヴィクトルに対する思い入れは自分でもドン引くほどだ。
そんな僕の目の前で、懐かしのナンバーを若き日を彷彿とさせる滑りでもって演技された日には、僕がどうなるのか説明するまでもないだろう…。

もう感動の嵐だよ!
とても言葉などでは言い表せないこの思い!!

まさしく「愛」だ…ッ

LOVEだよ、LOVE!!

分かるかなぁ~。いや、一般人には分からないだろうな…。そもそも一般人には事の重大さが、伝わってないんだよ。
みんなせいぜいヴィクトルのこと「スケートが上手」とか「リビンクレジェンド」とか「世界選手権五連覇の人」とか「超絶美形」とか「スケーターでモデルで俳優」とかその程度の認識なんでしょ?

ダメ!全然ダメ!分かってないよ…。スケオタはギリギリ分かってるかなぁ~。
いや、しょせんは「スケオタ」だもんね。ヴィクトルのスケーターとしての「力」や「美しさ」は理解できても「選手」としての彼の凄さは分からないだろうな~。

だって「スケオタ」だもん。

君たち、競技に出たことないよね?テレビの前で応援してるだけでしょ?確かに、毎回リンクまで応援しに来てくれるファンだっているけど、選手じゃないもん。
戦ったことないでしょ、ヴィクトルと。
同じリンクで同じ瞬間に滑ったことないでしょ?

同じ大会にでたことあるの??

所詮は「フェンス越しの愛」なんだよ。境界線っていうのかなぁ…。住む世界が違う、みたいな?
ごめんね、でも本当に、全然、分かってないから!!

何が起きたのか正しく理解できたのって、クリスやユリオ、それに僕みたいな選手兼ヴィクオタ。それに古株の大会関係者や、ヴィクトルをずっと追いかけてる報道関係者だけなんじゃない?
要はこっち側の人間ってことだ。

僕たちの目から見たヴィクトルはね、いま、とんでもないことになってるんだよ!!

元々、若ヴィク時代からリンクの上で圧倒的な美しさを放ち観客を魅了していたヴィクトル。
彼のデビューは鮮烈で、スケート界に激震が走ったほどだ。そんなヴィクトルだからして、世界ジュニアで歴代最高得点を叩き出す前から大注目の選手で、ジュニアに上がって直ぐの頃からファンがついていた。
まさに世界に愛されるために生まれてきたような人なのだ!

リンクの上だけに留まらぬ若ヴィクの美しさに、誰もが彼に夢を見た。
15の頃には余りの美しさに「天使」と呼ばれ、その天使の姿そのままにシニアデビューを果たし、全世界が彼に恋をした…!

ダメだ…!!思い出すだけで興奮が治まらない…。涙が溢れてくるッ
この「キモチ」が、にわかファンの君たちに解かるか!??分かるわけないだろう?
君たちはヴィクトルの成長を知らないんだよ!!
上辺だけ見て分かった気になってるだけなんだよッ
特集記事見て、ヴィクトルの成長変遷を写真なんていう薄っぺらいアイテムで斜め読みして分かった気になってるだけなんだよ!!
動画だって同じだ…。あの瞬間、あの場所にいてこそ伝わるものがあるんだよ!まぁ、ヴィクトルの場合、その天才的なセンスと才能から記録媒体を通してですら僕たちに感動と興奮を伝えてくれるわけだけれども、それに胡坐をかいてちゃ「ヴィクオタ」なんていえないよ。

ほんと、呆れるよ。
そんなんだから「新生ヴィクトル・ニキフォロフ」なんて言っちゃうんだよ。

ちがうよ、そうじゃない。ヴィクトルは生まれ変わってなんていない。
僕たちが今まで見てきたヴィクトルは、ヴィクトルの一部に過ぎなかったてことさ。

若ヴィク時代。ヴィクトルはその美しさで「天使」ともてはやされた。成長するに従い、洗練されていくスケーティング。向上する技術力。そして独創的な衣装は、彼にしか作れない世界観を体現し、やがて大人になった彼は美しさをそのままに、「天使」から「色男」になった。
ハッキリ言おう…。ヴィクトルは男の僕から見てもカッコイイ!
非の打ち所がない!
完璧だ!!
だが完璧なのは容姿だけではない。成長した彼のスケーティングもまた、あらゆる要素が完璧であった…。

僕たちが最後に目にした「ヴィクトル・ニキフォロフ」は、リンクの上で近寄りがたいほどの神聖な空気を纏い、彼が生み出した天井からの調べと共にその圧倒的な美しさでもって観客を魅了した。
スケーティングは「皇帝」の名にふさわしく細く研ぎ澄まされ、エッジが氷を削る音すら芸術の域であった。すべてが予定調和。ジャンプやスピン、ステップ、エッジワークなどあらゆる要素が繋ぎの部分に至るまでGOE+3を叩き出し、こちら側の人間を圧倒した。
まさに神の域だ…。
彼は人間ではないのではないか…?
僕たちは一体なにをみているんだ。

完璧を通り越し、神の域に達した彼に、こちら側の僕たちはただ立ち尽くした。

君たちは普通にキャーキャーいってただけだろうけど、あの頃も大変なことが起きてたんだからね??分かってないと思うけど!!
一度でいいから真剣に得点みてくれるかな!??
もう人間じゃないよね??

ヴィクトル・ニキフォロフは人間じゃなかったんだよ!!!
本当だよ。あの頃の彼は人間じゃなかったんだ…。

いまなら分かる。あの頃の彼は、笑顔を浮かべているくせに、氷上にいてもちっとも楽しそうじゃなかった。美しく整った顔に浮かんでいたのは笑顔なんかじゃなかったんだよ。

世界中を振り回す傍若無人な皇帝は、音も光もない凍てついた世界で一人、泣いていたんだ。

その事に気付かせてくれたのがヨーロッパ選手権でみた「ヴィクトル・ニキフォロフ」だ。
ここまで話せばもうわかるだろ!??
僕のヴィクトルが帰ってきたんだよ!!

僕たちの、あの「ヴィクトル」が、帰ってきたんだ!
僕が恋したあの「ヴィクトル・ニキフォロフ」が、圧倒的な技術力と美しさと、零れるような笑顔を引っ提げて帰ってきたんだ…。

言葉では言い表せないこの思い!!
僕は泣いたよ。観客席で泣いたよ。




ヴィクトル!
僕はずっと長いこと貴方を見てきたけど、成長するにつれて少しずつ失われていった可愛い笑顔や無邪気な姿。それにあの弾けるような輝きたちは、ヴィクトルが大人になることと引き換え手放したものなんだと思ってた。
でも違ったんだね。
ヴィクトルはずっとヴィクトルのまま、一人で苦しんでいただけだったんだ。なにも失ってなんていなかったんだ!

ようやくヴィクトルは「ヴィクトル」に戻れたんだ。
僕は今日という日を一生忘れないよ!!


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


あの日を境に、僕は人知れず坂道を一人転がり落ちていった。
僕の右手にあるエンゲージリングは、僕に都合のいい妄想を抱かせるには十二分だったし、それを止められるはずのヴィクトルも僕の異変には気付けなかった。


選手兼コーチなんて、またしても新たな偉業を達成しちゃうねヴィクトル!
でもそれは同時に僕の金メダルが困難になるということで、金メダルがなきゃ師弟関係も終わらないわけで、おまけに僕はコーチ料が未払いのままだ。

つまりヴィクトルはずっと僕と一緒ということだ!!
なんて遠回しで過激な愛情表現なんだろう…。
これは一生ヴィクトルから離れられないよね。
なによりヴィクトルは僕に云ったんだ。「ユーリは俺のLOVEとLIFEなんだよ」って。

僕と共に長谷津で過ごしたことでヴィクトルは2つのLを取り戻した。
そして僕と一緒にいることでヴィクトルは日々新しい驚きと感動に出会い、心を揺さぶられ、新たな感情と出会えたのだと語ってくれた。
今回のヨーロッパ選手権でヴィクトルは完全に復活した。新しく新鮮な感情を受け入れ、それを作品として昇華することに成功したのだ。

ヴィクトルの新しい伝説が、またここから始まる。

その瞬間を一番間近で見ることができるなんて、僕はなんて幸運なんだ…!!


今回のヨーロッパ選手権のヴィクトルの滑りを受け、世界はヴィクトル・ニキフォロフの復活に沸き立ち、1か月後に控えた世界選手権を前にヴィクトルの新しい写真集の発売も決定した。ノービス時代から現在に至るまでの彼の写真を一挙に集めたもので、全4巻が発売される。
1巻の発売日は狙いすましたかのように世界選手権の初日だ。

『沈まぬ太陽/終わらぬ夢 〜ヴィクトル・ニキフォロフの軌跡〜』

最終巻が発売される頃には、世界選手権6連覇の偉業を達成した28歳の彼までをも収録した内容になるという実に憎い内容になっているのだから、僕が全巻予約したのは言うまでもない!
新聞の片隅にしか載らなかったようなノービス時代の彼の写真まで徹底的に収めたという珠玉のシリーズだ。新聞の切り抜きや、ネットの荒い画像でしかみられなかったヴィクトルが最高の状態で見られるのだ!しかも24時間、1年365日いつだって見放題!触り放題!!

夢のような日々だ…。

ポスターに使われた写真だって収録されている!
市場に出回っているヴィクトル・ニキフォロフを国家権力により一冊にまとめ上げたのが『沈まぬ太陽/終わらぬ夢 〜ヴィクトル・ニキフォロフの軌跡〜』なのだ!!

スパシーバ!
バリショーェ スパシーバ!
ロシア、アグロームノェ スパシーバ!
スパシーバ ザ フショー!
ブラガダリュー ヴァス!!!



僕の名前は勝生勇利。
信じられないかもしれないけど、フィギュアスケート界のリビングレジェンド皇帝ヴィクトル・ニキフォロフのフィアンセだ。
普段の僕は世界選手権五連覇を目指すしがないフィギュアスケーターとしてヴィクトルコーチの元、日々練習に励んでいる冴えない日本の特別強化選手なんだけど、実は夜はヴィクオタとして活動しているんだ。
「ヴィクトル・ニキフォロフ」それは僕の欲望の名前だ。

フィアンセのオタクをしているなんて意味わかんない?
いいや、分かるよ。

分からない君の方がむしろわかんないよ。



一度想像してみてもらいたい。
思春期真っ盛りの健全な青少年に対して、意中の人間から性的な話題をふられた場合、どのような反応を示すのかを。

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

その言葉は延々とオレの頭の中を駆け巡り続け、すべての喧騒からオレの思考を切り離した。
身体と思考が切り離されたオレの身体は黙々と6分間練習に打ち込む。オレの滑走順は後半グループの一番滑走だ。6分間練習で体力を使い過ぎると演技に影響が出る。特に体力面で他の選手に劣るオレはその点に十二分に気をつけなければならない。

身体はこの後に控えている演技のためにジャンプ、スピン、ステップを軽く流しながら確認する。その一方で身体と切り離され静寂の中に放り込まれたオレの思考は荒ぶっていた。

何をどう受け止めたらいいのか分からない。
ヴィクトルの言葉を聞いた途端、全身から血の気が引いた。自分が何と答えたのかすら記憶にない。
ただとにかく逃げるようにその場を後にし、こうしてリンク内をグルグル…グルグル…グルグル…周っている。

スケーターとしてのオレが言う。「試合前にセックスとかありえねぇだろ!馬鹿かっ」
オレはまだ経験もないしヤコフから注意を受けたこともないが知識としては知っている。試合前にセックスなんて一流選手であればあるほど有り得ない!
あらゆるアスリートも大切な試合前は禁欲を実践している。これは気持ち的な問題だけではなく、科学的にも理由があるのだ。
射精によって男性ホルモンのテストステロンが放出されてしまうのを防ぐのがその理由だ。テストステロンとは男性ホルモンの一種で、たんぱく質の合成を助けて筋力と筋肉を増強させ、闘争心を駆り立てる作用がある。つまり、パフォーマンスの向上には欠かせないものなのだ。
大体、射精によって「亜鉛」やアミノ酸の一種「アルギニン」という大切な栄養まで失ってしまうのだから、ヴィクトルなんて絶対しない方が身のためだ。

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

いやまて、そういえば禁欲否定論も存在してたな…。
オレは賛成派だからここしばらく大会に合わせてヌいてないけど、ヴィクトルのやつもそうなんだと思ってたのに…。

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

そいえばバレエの講師がいってたっけ。セックスしたかどうか、後ろ姿を見ただけで分かるって。

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

っていうかさ…、どっちがどっちなんだよ。
お前がカツ丼を抱くのか?
カツ丼がお前を抱くのか?

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

ダメだ!!鎮まれオレ!まずいまずいまずいまずい…!!!

無意識にオレの視線がアイツのケツを追い始める。
長谷津の温泉でだって、練習後のシャワールームでだってヴィクトルの裸など散々見てきた。なのに何でだよっ

(衣装着てる姿の方がエロいなんて、有り得ねぇだろ!!勘弁してくれッ)

選手紹介で名前がコールされたってオレの耳には何も届かない。

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

ヴィクトルがどういう認識でいるのかは知らないが、カツ丼はアイツを抱きたいと思っているはずだ!
だってオレと同じはずだから。
同じ目でヴィクトルを見ていたはずだから。

『ユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ』

気が付けば6分間練習が終わり、オレが追いかけていたケツがリンクサイドに引っ込んで行く。
そして寂しげに手を振り、オレに「ユリオ、ダバーイ」と声をかけてくるのだ。

オレはそのヴィクトルの表情を前にも見たことがある。GPFでオレを抱きしめた時のアイツの顔だ!!

グッと両手に力が入る。
心と身体が一つになっていくのを感じ、オレは一つ息を吐き、フェンス越しにオレを見守るヤコフとリリアに「行ってくる」と男らしく潔く告げた。

好きなやつに無様な姿を見せたくないのはオレも同じだ。

だがそんなオレの出鼻をくじくように、観客席から耳慣れた声が「ユリオ~、ダバーイ!!」と!!

(なにが「ダバーイ!!」だ、豚野郎ぉおおお)

迷う事なく声の発生源を睨みつけ、指をさす。無言の宣戦布告だ。

立ち位置にたったオレに合わせ、ほどなくして「愛について~Agape~」が流れ出した。



あーーークソ!全然アガペーって気分じゃねぇよ!
カツ丼のやつ、この大切な時期に試合観戦なんかに来やがって!下心が丸見えなんだよッ

『あーあー、ユーリとエッチしたかったなぁ~』゚+。*(*´♡`*)*。+゚

黙れヴィクトル!!
まだオレは失恋とか認めてねぇからな!!!
誰が認めるかよ、クソがぁあああーーー


あ…力みすぎて後半のジャンプ抜けた…


こうしてヴィクトルの歴代最高得点を塗り替えた、オレ渾身のSPはヨーロッパ選手権において不発に終わった。
おまけに大会が終わってみれば金銀はいつもの並びになっている。

金メダルは復帰後まさかのヴィクトル・ニキフォロフ
銀メダルはクリストフ・ジャコメッティ
そして銅メダルはオレ、ユーリ・プリセツキー

会場は皇帝の帰還に大いに沸き返り、表彰式が終わった後も会場が静まることはなかった。
だがそれも当然のことといえよう。このオレでさえ訳の分からない感動に包まれているのだから…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


ロシアナショナルでは復帰初戦ということもあり、ヴィクトルの滑りにも修正を加えた昔のプログラムがどこまで評価されるのかを確認するような慎重さがあった。
だがロシアナショナルの結果を受け、今回のヨーロッパ選手権でヴィクトルはプログラムにさらなる改変を加え点数を伸ばしてきたのだ。

手持ちの武器は昨シーズンと同じはずなのに。
ベースは5年前のプログラムだというのに。
衣装だって去年のエキシで使用した既出のものだというのに。
そこにいるヴィクトルはまるで別人だった。

ヴィクトルの滑りが変わったのだ。

内訳だけを見てみれば、技術点は昨シーズンに比べて点数が低かったが、それをカバーする演技構成点で圧巻の滑りを見せた。
このパターン、どこかで最近も見たことがあるぞコノ野郎!カツ丼だ!!!

しかしこの際、そんなことはどうでもいい。
ヨーロッパ選手権でヴィクトルが見せた滑りは、今までのそれとは明らかに違っていたのだ。

これではまるで「新生ヴィクトル・ニキフォロフ」だ。オレはそう思った。だがヴィクトルを昔から知る人間は別の見解を示した。

「まるで昔のヴィクトルを見ている見たいだ…」

オレはてっきり、使っている音楽が5年前のワールド連覇の最初の年のものだったから、その言葉が出たのだと思った。
当然の話だが、12歳年の離れたオレはヴィクトルのジュニア時代など知るはずもない。「天使」と呼ばれていたジュニア時代のヴィクトルのことは写真などで目にする機会はあったが、積極的にその演技を見たこともなかった。
だってジュニア時代だぜ?どう考えたって見るなら今のヴィクトルだろ!

ヴィクトルは完璧だ。
確かな技術力に裏付けされたジャンプにスピンにステップ。技と技の繋ぎだって加点をバンバン叩き出す。そしてその表現力と美しさ。ヴィクトルにしか体現できないあの世界観。
参考にするなら断然シニアのヴィクトルだ!

だが会場にいる古くからヴィクトルを知る人間はこぞってジュニア時代からシニア初期の頃のヴィクトルを引き合いに出し、浮き足立っていた。

同じリンクで練習していたオレだったが、正直、今回のヴィクトルは練習中のヴィクトルとも、ロシアナショナルの時のヴィクトルとも違って見えた。
初めて見るヴィクトルだった。
いや、もしかしたら本来はこれこそが「ヴィクトル・ニキフォロフ」なのかもしれない。

オレが同じリンクでヴィクトルと練習していた頃には、ヴィクトルは既にイマジネーションを枯渇させ瀕死の状態だったのだ…。
ただただ今まで培って来た財産だけでリンクの上を滑っていたに過ぎなかったのだ。

それだけに新生ヴィクトル・ニキフォロフの滑りは衝撃だった。

(なんだこれ…)

誰かの滑る姿を見て、こんなにドキドキしたのはいつ以来だろう。

(あぁ、そうだ。初めてアンタの演技を見たときも同じ気持ちだった)

でも今回のはあの時よりも、ずっともっとワクワクして、見ているだけで胸を掴まれる。目が離せない!

28歳の演技とはとても思えない世界がそこには広がっていた。
自分が子供の頃この演技を見てたら、間違いなくカツ丼のようにヴィクトルに恋をしていただろう…そう思わせる滑りだった。



すべてが終わり表彰台の上で「現役復帰して早々にこれじゃあ、ワールドも大変そう」とボヤいていたスイスのクリストフ・ジャコメッティは古くからヴィクトルのファンだったと聞く。
今でこそ表彰台のトップを争う二人だが、クリストフの表情は夢見る乙女のように熱を孕み、その視線は金メダルにキスするヴィクトルへと一心に向けられていた。
会場にいる観客も年齢によって二つの反応に別れている。
みなヴィクトルを祝福してはいるが、そこに見ているものは全く違っていた。

一方オレは…といえば、表彰式が終わり、記念撮影に移ってもオレの頭はうまく回らないでいた。自分の首に掛かっている銅メダルに対しても、いまは何も考えられない。

現役復帰して早々にヴィクトルに2連敗だ。
とはいえオレだって馬鹿じゃない。約9ヶ月のブランクがあるとはいえ、元々の技術力と表現力を考慮すれば、オレがヴィクトルに勝つためにはショート・フリー共にあのGPFを超える演技をする必要があることくらい初めから分かっていた。
わかった上で「ヴィクトル越え」を宣言していたのだ。
なのにあんなものを見せられてしまったら、もう何も言えない。

自分が更新したショートの歴代最高得点を、今のヴィクトルならワールドで超えてくるかもしれない…そんな予感さえするのだ。
そしてその光景がありありと眼に浮かんでしまうのだから、オレも大概「ヴィクトル・ニキフォロフ」という男に洗脳されている。

インタビューを終え、荷物をまとめ帰り支度をする段になってもオレが無言で銅メダルを弄っていたら、ヴィクトルが声をかけて来た。だがこのパターンはお説教タイムであることをオレは知っている。

「うるせぇよ、ほっとけ」
「まだ何もいってないだろ?」
「ステップとジャンプのミスだろ。ヤコフにもいわれて分かってんだよ…」
「そう、ならいいけど。ユリオは元気ないね。また俺に負けて悔しかった?」

「悔しがることは良いことだよ。次に繋がるからね」とのたまうヴィクトルは、もうオレが知っているいつものヴィクトルだ。なのにオレはヴィクトルに気楽に声をかけられない。

ヴィクトルに対するライバル心と憧れと恋心。
新しいヴィクトルへの興奮と戸惑い。
オレの中に新たに湧き上がった分類不明の感情…。

色々なものが込上げて、気が付いたらオレは、息をするようにカツ丼に八つ当たりしていた。

「なにヤコフの隣で関係者面して入り込んでんだよ!」
「いや、ヴィクトルとユリオに直接おめでとうっていいたくてさ…」

カツ丼の心底嬉しそうな顔を見て、新たな苛立ちがこみ上げる。
これは分かる「怒り」だ!

『あーあー、ユーリとエッチしたかったなぁ~』゚+。*(*´♡`*)*。+゚

全然進んでねぇと思ってたのに!!
思いつく限り阻止してやったのに!!

オレをほっぽってヴィクトルと金メダルの喜びを分かち合い始めたカツ丼の、ガラ空きになったケツに蹴りを一発食らわせる。

「いた!!ちょ…なにすんのさ、ユリオーーー」
「おい、カツ丼!また家に帰ったらヨロシクなぁ」

黒い笑みとともに告げてやれば、心底驚いた顔をして「え!?戻ってくるつもりなの!!?」といいやがった!

「ったりめーだろ!誰が二人っきりになんてするかよッ」


ヨーロッパ選手権、男子ショートプログラム。
後半グループが6分間練習のためリンクサイドに集まってきていた。そんな中で俺は珍しく緊張を口にした。

「こんなことならユーリとエッチしといた方が良かったかなぁ…」

俺の隣には同じく後半グループをクジで引き当てたユリオが同門のよしみでストレッチしながら話を聞いている。

「ゼッテーしなくて正解だったぞ、クソジジイ」

ユリオはそういうと練習開始時間ぴったりに開け放たれた扉から、製氷を終えたばかりのリンクへ勢いよく駆け出していった。俺とユリオの会話はロシア語だったから周囲の選手には理解できなかっただろう。試合前の6分間練習を目前に控えて、自分がこんなことを言う日が来るなんて夢にも思わなかった。
周囲の選手から遅れてリンクインした俺の背中に「ヴィクトル、ダバーイ!!」と声がかけられる。振り返れば関係者用の観客席から勇利が俺に手を振っていた。

(人の気も知らないで…)


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


今シーズン約9カ月、選手としてリンクを離れていた俺の現役復帰は、毎年12月下旬に行われたロシアナショナルだった。今年は俺の誕生日まえに試合が行われ、俺は27歳最後の試合を奇しくも金メダルで締めくくることができた。
いや、「奇しくも」というのは言い得て妙な話だ。俺は間違いなく金を狙っていたのだから…。

勇利のGPF銀メダルを見届け、コーチ継続と勇利の現役継続を取り付けた俺はすぐさまロシアナショナルへ向け始動した。とはいえ俺も今シーズンで誕生日を迎え28歳になる。25歳を迎える頃には高齢スケーターとしていかに長くリンクに立ち続けるか…を念頭に置いた練習にシフトし始めていた俺としては、今日まで大きな怪我も不調もなくやってこれたのは当然のことだが、しかしだからといっていつまでもリンクに立ち続けるつもりもなかった。
人より長くリンクの上で生きてきた俺は、多くのトップスケーターやメダリスト達の落ち目もみてきた。当然それらは余り気分のいいものではない。だから俺は自分の引き際だけはハッキリ決めていた。

メダルが取れなくなったら終わりにしよう。

年齢なんて関係ない。いつスケーターとしてのピークが来るかなんて誰にもわからないのだ。それと同じで落ち目もいつやってくるかなんて誰にもわからない。ましてや「リビンクレジェンド」の落ち目なんて誰が見たい?
俺が今まで与え続けてきた驚きと感動に水を差すことだけはしなくなかった。みんながその瞬間感じてくれたものを永遠にしたかった。
それになにより勇利の前で無様な姿は見せられない!俺がロシアナショナルで金を獲れなかったら、きっと勇利は自分を責める。勇利が信じるヴィクトル・ニキフォロフはいつだって金なのだ。どんな状況下であっても、俺はベストを尽くしてみせる。メンタルの弱い勇利にこそ、俺のその姿を見せたかった。俺は選手としてもコーチとしても、まだまだ勇利に伝えたいこと、届けたいことがイッパイあった。

…と思っていたはずなのに、実際、ホームリンクに帰って滑ってみたら、世界は花が咲き乱れ、小鳥はうたを歌い、すべてのものが煌めいて眩しく、目に映るもの触れるものすべてが新鮮で驚きと感動の連続だった。
何を言っているのか分からないだろうね。俺もサッパリ分からなかった!だからヤコフにいったよ、

「ヤコフ…大変だ。世界が俺を祝福しまくってる!」
「見ればわかる…」

ヤコフも俺の変わりように眉を顰め腕を組み「まさかこうなるとは…」と唸っていた。
まぁ、結論から言えば、28歳にして俺は10代の頃の俺に戻ってしまったのだ!

とにかく滑るのが楽しい!
28歳。酒とコーチ業のおかげで鈍ったはずの身体も軽い!
どの音楽を聴いてもイマジネーションが溢れて止まらない!
楽しい、嬉しい、面白い!

「ヤコフ!!世界はこんなに輝いていたんだねっ」
「もういい、状況は分かった。今シーズンの曲を決めるぞ」
「うん!」

ロシアナショナルを控え他の選手たちがピリピリし始める中、俺の心は軽かった。

「で、何か希望はあるか?」
「うーん。ここに戻ってくるまでは去年エキシで滑った曲や、ストックしてた曲を使おうかと思ってたんだけど、やりたいことが見つかったからそれはナシ!」

いつものごとく人差し指を唇の前で立てた俺に、ヤコフは不審物を見るような目を向けてくるが俺は一切気にしない。

「今の俺が、今までの俺とどう違うのか、みんなに見せてあげたい!この感動をみんなにも分けてあげたいんだ。どう思う、ヤコフ!?」

かくして俺は過去の自分のプログラムの中から、今の俺に最も映えるであろうプログラムを選び、ジャンプ構成を変え今の俺用にアレンジし、かつメダルが狙える内容にして今シーズンの勝負曲とした。
ヤコフはいった。「元々お前が振付した曲だ。世界選手権連覇のきっかけとなったプログラムでもある。余程のミスでもない限り、今のお前ならメダルは獲れるだろう。色までは保障せんがな…」と。
本当にヤコフは最高のコーチだ!誰よりも俺のことを分かっている!!

「ありがと、ヤコフ!」

何一つ困ったことなどないが、久々にヤコフを好意的な意味で抱き締めたら、「衣装はどうするんだ」と訊いてきた。

「もちろん新しくするよ?だって今までの俺とは違うんだもん。同じ衣装なんて有り得ないよ~」
「今から作るとなると、ロシアナショナルには間に合わんぞ…」
「えーーーーー!!!!何とかしてよヤコフッ」
「無理なものは無理だ…」

…ということでロシアナショナルの衣装はエキシの衣装を使いまわすことにした。俺としてはチョット…いや、カナリ不満だったけど、観客からの受けは良かったから、まぁ良しとする。本番はワールドだしね!

ところが衣装は意外と早くできてしまい、ヨーロッパ選手権の頃には俺の手元に完成版が届いていた。でも俺はあえて新しい衣装に袖を通さず、エキシの衣装で大会に臨んでいる。お楽しみはワールドでね♡という俺なりのサプライズだ。
ヤコフは新しい衣装を着ない俺を心配して「気に入らなかったのか?」と訊いてきたが、ちがーうよ!
新生ヴィクトル・ニキフォロフの完成版をワールドでみんなに見せてあげたいのだ!


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


復帰以降、俺は体力的な問題もありスケーターとして外せない重要な大会以外は、それが国内大会であったとしても出場を控えた。もちろんアイスショーにだって出ていない。身も心も絶好調の俺だったが、コーチ業にも熱が入り、正直あれこれ手を広げられないというのも一つの理由だ。
なにより、こういう時こそ慎重に行動しなければ怪我をする。
コーチとしての俺はこの上なく情熱的だったが、選手としての俺はこの時期いままでにないほどに慎重派だったのだ。

新しい俺をみんなに見せてあげたいというキモチ。
そして新しい自分の世界に対する少しの戸惑い。
大胆でありながら繊細で、少しばかり臆病になっている俺は、さながら思春期の少女のようだ。

まぁ、そんな俺のことを勇利がどこまで理解できていたのかは確認のしようもないのだが、俺の演技に対して勇利からは絶賛の嵐だったので、何がしかは伝わっているのだろう。
コーチとしてリンクに立つことはあっても選手として滑る姿を見せたことはほぼなかったから、勇利が俺の演技をショート・フリー共に通してみたのはロシアナショナルの映像だけだ。

勇利はもしかしたらこれで俺の今シーズンの演技が完成形だと思っているのかもしれないが、それは大間違いだ。ワールドでは衣装だって替えるし、修正を加えたプログラムだって滑るたびに進化していく。
完成はワールドなのだ。楽しみにしているといい!


でもそんな風に俺が楽しい秘密を抱えながら笑っていられたのは、前半グループの選手が滑り終えるまでだった。


いままでだって『期待に応えよう』と思ってきたけど『期待に応えたい』と思ったのはこれが初めてだ。
俺は勇利と出会ってスケーティングだけでなく、その心の内まで変わってしまったらしい…。
俺は俺自身の変化に、よりによって今このタイミングで戸惑っていたのだ。

(試合前に緊張なんてしたことなかったのに…)

ぎゅ…と自らの胸元を握りしめ途方に暮れる俺。
ヤコフは当然のようにユリオの世話を焼いている。当たり前だ、俺は試合前だって平常心で緊張らしい緊張などしたこともなかったのだから、ヤコフだって完全に信頼しきって俺のことを放置している。
後半グループの6分間練習が迫り、各選手がジャージを脱ぎ控え室や廊下から移動を始めたというのにいつまでたっても動く気配のない俺に、ユリオが後ろから声をかけてきた。

「おい、移動しねぇのかよ」
「うん…」
「なぁ…まさかとは思うけど…緊張してんのか?」

ユリオの言葉に素直に言葉を返すことができず、俺は疲れたような笑みを浮かべてユリオを見つめ返した。

「勘弁しろよ…。なんでアンタが緊張してんだよ」

心底嫌そうな顔をして、しかしユリオは「とにかく移動だ」といって俺の腕を掴んで廊下を歩き出す。

「もしかしてアレか?カツ丼が見に来てるから緊張してんのか」
「そうかも…」
「心底鬱陶しいな」

ユリオの言葉を受け、俺も俺自身に凹みそうになる。

「ユーリの前では、いつでも完璧な俺でいたいんだ…」
「悪いがアンタが完璧だったところなんて、オレはリンク以外で見たことねぇぞ」
「Really !?そんな馬鹿な!俺はリンク以外でだって完璧だよっ」

ユリオの言葉に思わず大声が出てしまう。もうリンクサイドに到着し後半グループの選手たちもいるというのに、年甲斐もなく大声などあげて益々凹みそうになる。

「ユーリもそんな目で俺のこと見てるのかなぁ…」
「長谷津時代の自分を思い出せよ28歳児」
「あーーーー、勇利が俺とエッチしたいって言った気持ちが段々わかってきたぞ…」

額に手をあて天を仰ぎぼやく俺に、今度はユリオが大声を出す番だった。

「はぁ!!?おま、マジで言ってんのかッ」

俺とユリオの不用意な大声に、とうとうリリヤから「静かにしなさい!」とお叱りが入ったのだが、幸いなことに会話はすべてロシア語である。だから俺は安心してユリオに愚痴をこぼした。

「こんなことならユーリとエッチしといたほうが良かったかなぁ…」

追い詰められたアスリートは何をしでかすかわからない。どうやらそれは俺にも当てはまることだったらしい。



ねぇ勇利…。俺は人を驚かせるのが大好きだったんだ。だけどそれって逆にいえば、常に人の顔色を伺ってたってことなのかな?
いまはね、自分のために滑りたいって思うよ。新しい俺をみんなに見てもらいたい。
でもね、俺は勇利の期待にも応えたいんだ。

どうしよう…俺はすごく欲張りになってしまったみたいだ…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


ユリオと俺の掛け持ちコーチのヤコフは大変だ。俺とユリオが連番を引いてしまったので、もうずっとリンクから離れられないでいる。
なのにヤコフときたら疲れを一切見せない力強い目で、演技に向かう直前の俺の手を握りしめていったんだ。

「安心しろヴィーチャ。今のお前ならワールド6連覇だって夢じゃない」
「…ヤコフにそんなこと言われたの、初めてだ」

驚きに両目を見開く俺に、「いままでいう必要がなかったからな」と複雑そうな顔で応えるヤコフ。そんなヤコフに俺は思わず抱き付きその頬にキスしてしまった。まるで勇利と俺みたいだね。

「ありがと、ヤコフ。俺がんばるよ!ユーリのために頑張るからっ」
「ん!??おい、ヴィーチャまて!それは違うだろ…ッ」

ヤコフに別れを告げ、リンクの中央にむかって滑り出す俺に、なおもヤコフが話しかけてくるが気にしない。俺の心は決まっている。
観客席から聞こえるたくさんの声援に混じって聞こえてくる「ヴィクトル、ダバーイ!!」の声に投げキッスを送り、俺は一つ息を吐いて立ち位置についた。

目指すのは「金」それだけだ!


いつか氷の上に返さなきゃいけない…。

長谷津時代、後で辛くなるのが嫌で、僕は無意識にヴィクトルへ手を伸ばすことを拒んでいた。手を出さず関係の進展を回避していたのだ。
だがロシアに拠点を移し、僕がヴィクトルにとってのLOVEとLIFEであることが判明した今、もう僕とヴィクトルが離れることはないのだと確信を持っていえる。
つまり僕とヴィクトルの関係の進展の障害となるものはなくなったのだ!

ヴィクトルとこの先に進んでもいいのではないか。
いやむしろ進むべき時が来たのではないだろうか。
僕を牽制する目的で同居していたユリオは、先日めでたく反抗期を終えると同時にヴィクトルの家を後にしていた。

(正直、いましかない気がする!!)

気が付いてしまってからは、もうその事しか考えられなくて、僕は一人ひたすらソワソワし始めてしまったのだった。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


毎年一月下旬に行われるヨーロッパ選手権。
国際スケート連盟に加盟するヨーロッパ各国の選手が出場し、その成績によって世界選手権への出場も左右される大切な大会だ。そしてその名が冠する通り、参加するのはヨーロッパ各国の選手にのみ。つまり俺とユリオにとって大切な大会ということになる。

その大切なヨーロッパ選手権を10日後に控えたある日を境に、なぜか全く無関係の勇利の演技に乱れが生じ始めた。正直この段階で突然やってきた不測の事態に、俺はコーチとして成す術もなく、ただただ勇利の演技に眉を顰めるばかりだ。
ユリオなんてヨーロッパ選手権を二週間後に控えた頃には長らく続いた反抗期にも別れを告げ、「集中したいから大会が終わるまで家を出る」と言葉少なに荷物をまとめリリヤの家へと戻っていったというのに…。ちなみにユリオは今回も金メダルを獲る予定らしく、大会一週間前に現地入りして調整するという念の入れようだ。
さすがに一週間前は早すぎるだろう…と、俺は三日前に現地入りする予定でいるのだが、ホームリンクで出来る最後の追い込み時期に勇利がこのていたらくでは最早不安しかない。
俺がヨーロッパ選手権を控えているのと同じように勇利にだって大切な大会が控えているのだ。それは四大陸選手権。この大会で結果を残さなければ勇利は世界選手権へ出場することができなくなる。ちなみにこの大会、端的にいえばヨーロッパ選手権に参加していない国々が参加する大会だ。カナダのJJやカザフスタンのオタベック、それに勇利の友人タイのピチットなどが主だった参加者だ。各選手のベストスコアだけ見ても勇利が優勝するにはGPF並みの演技をしなければ金メダルは狙えない。なにより試合は水物。何が起こるかは誰にもわからない。だからこそ限りある時間を有効に使い、勇利にも真剣に調整に取り組んでもらいたいというのに…。

「もうユーリが何を考えているのか、俺にはサッパリ分からないよ…」

俺の呟きが耳に届いたのかなんなのか、目の前で四回転フリップを見事に転倒した勇利は愛想笑いで俺の機嫌を取ってくる。

「ちがうちがう、そうじゃないだろう~。何やってるの、この大切な時期に!」

ホント「何やってんの」である。頭が痛いのは実はリンクの上だけではないのだ…。
はぁ…と溜息をつき、ヴィクトルは自らの額に手を当て項垂れた。



ヴィクトルとしては勇利の「奇行」はユリオがいなくなってから始まったように思う。
シーズン後半の大切な大会を控えているというのに、妙なアプローチをしてくるのだ。「何を?」とは訊かないでいただきたい。最初はヴィクトルも勇利の意図することが分からず、頭にクエッションマークを飛ばしまくっていた程だ。
まさに「??」状態である。
しかしヴィクトルとて男である。勇利の意図することをいつまでも察することができないほど子供でもなければ鈍感でもなかった。そしてだからこそ、勇利の意図することが分かってからのヴィクトルの対応は早かった。勇利の「奇行」のすべてを無視しとおしたのだ。幸いなことに勇利はまだ無視されていることに気付いていない。このまま気付かないでいてもらいたいとヴィクトルは思う。

いくら婚約中とはいえタイミングが悪すぎる。なぜ今このタイミングなのか、勇利に小一時間ほど問い質したいほどだが、問い質せばハッキリ勇利に「NO」を突きつけなければならなくなる。メンタルもフィジカルも揃えてベストな状態で試合に臨んでもらいたいヴィクトルとしては、どうあってもここで間違いが起こっては困るのだ。
そもそも勇利はDTだ。
24年間、性の悦びを知らずに生きてきたのだ。いまここで脱DTなどしてしまったら勇利はいったいどうなってしまうのか…。考えただけで恐ろしい!!

知らない方がいい世界もあるよね!脱DTした勢いそのままに猿みたいにサカりまくって練習に集中できなくなってもアレだし!!

すべては勇利のためである。コーチとしても、フィアンセとしても、勇利より年上の先輩スケーターとしても、人生の先輩としても、金メダルを本気で獲るつもりなら、ここが我慢のしどころというやつだ。



…と俺がこんなに勇利のことを思って無視しとおしているというのに、よりによって俺は大会開催三日前に現地入りしたホテルのベッドの上で勇利にストレートに迫られていた。
曰く「ヴィクトル!エッチしようッ」だそうだ。
追い詰められたアスリートは何をしでかすかわからないって言うけど、ワォ、勇利ってばそんなに追い詰められていたんだね。勇利の出る大会なんて今から20日も先だっていうのにね!!

もうこれは朝まで説教コース確定だね、勇利゚+。*(*´♡`*)*。+゚


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


僕はいまヴィクトルに説教されている。
ヴィクトルはベッドに腰かけ、長い脚を組みながら腕まで組んで完全に説教モードだ。一方の僕はといえば、カーペットの上で正座して俯いている。

なにがいけなかったんだろう。

僕を叱責するヴィクトルの右手の指にはゴールドの指輪が光っている。もちろん僕の指にも光っている。

「ユーリが俺に挿れるのも、俺がユーリに挿れるのもダメだよ!絶対に許さないからっ」

俺もユーリも大会を控えてるんだよ、わかってる!?
いまそんな変なことで身体を痛めたり、安易な快楽に溺れたりしたら絶対にロクなことにならない!
そういうのはシーズン終わってからにして!

「金メダルで結婚っていったよね、俺。婚前交渉なんてしないよ?そもそも俺たち二人とも現役なんだよ、自覚ある?体への負担考えなよユーリ」
「…はい」

ヴィクトルの説教にみるみる萎れていく僕。
20年間LOVEとLIFEを置き去りにして突っ走ってきた伝説は、とても禁欲的な人でした…。

肩を落とし意気消沈する僕。しかし僕は希望を捨ててはいなかった。なぜなら「説教」はされたが「拒絶」はされていないのだ!
それになにより今はっきりと明言されたぞ!ヴィクトルと僕の指にはまっている指輪は「お守り」なんかじゃない。やっぱり間違いなく「エンゲージリング」だったのだ!!
冗談めかして「エンゲージリングだよ♡」と言ったあの日以来、確認することが憚られ、ある種うやむやで宙ぶらりんだった指輪にようやく明確な名前が付けられた瞬間でもあった。
ヴィクトルとの「結婚」がいよいよ現実味を帯び、心拍数が上がってくる。しかしそんな僕をほっぽってヴィクトルの説教はまだ続いていた。

「だいたい勇利はDTだし、俺だって後ろはバージンなんだよ?勇利が思ってるほど簡単にエッチなんてできるわけないだろう」

なん…だ、と、!??
僕は聞き逃さなかったぞ…。シッカリ耳にした!ヴィクトルは…ヴィクトルはぁあああああーーーーー

「やだユーリ!鼻血出てるよっ」
「え…うわッ」
「ティッシュ、ティッシュ!!」

その後、ヴィクトルに強引に鼻の穴にティッシュを詰められるという色気のない展開になったのだけれども、その程度のことで僕のこの興奮が納まるはずもなく…。

「ねぇ…全然鼻血止まらないけど…大丈夫、ユーリ?」
「大丈夫じゃないかも…」

だって、僕のヴィクトルは処女なのだ。純白の花嫁なのだ!
うわぁあああーー!!ヴィクトルが…ヴィクトルがぁああああーーーーー

オフシーズン早く来い!!!!

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