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四大陸選手権、FP前日の公開練習中。僕はヴィクトルに公衆の面前で、とんでもない爆弾発言をされてしまった。

「ユーリもしかして禁欲してなかった!?」
「ひっ…」

ヴィクトルの言葉に、フェンス越しに彼から受け取ったワンタッチマグボトルを握りつぶす勢いで全身に力が入り過剰反応する僕。
普段の僕ならヴィクトルの言葉に慌てふためき大騒ぎし、ジタバタと両手を振り回し反応しただろう。しかし図星を指された僕はといえば、ただただ固まるしかない。否定することも肯定することも、愛想笑いを浮かべることも「も~~~、やめてさヴィクトル~。恥ずかしかーーーー!!!」と軽く流すこともできず、ただただフェンスを挟んだ氷の上で固まることしかできなかった。

四大陸選手権、SP。僕は四回転フリップで転倒し序盤から点数が伸び悩んでいた。
四大陸にはクリスやユリオはいないが、JJやオタベックがいる。JJはGPFが嘘のように持ち直し、今大会では完全復活といっていい状態に仕上がっていた。加えてオタベックも世界選手権へ向け調整が進んでいるようで各種大会に出るたびにパーソナルベストを更新し続けている。
金メダルが獲りたいのなら、僕はFSでGPF並の滑りをしなければならない。

にも拘らず僕の滑りは悪くはないが良くもない状態を維持したまま、今日という日を迎えてしまった。要はエンジンがかかっていないのだ…。

「俺はそんなところまでコーチしなきゃいけないのかい!?」

項垂れて「ごめん」としか言えない僕に、ヴィクトルはとうとういつかのように額に手を当て、天を向き溜息をこぼした。

こういうの、自業自得っていうんだよね。知ってる…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


僕はここ20日ばかり禁欲とは無縁の、欲望に忠実な日々を送っていた。

本来の僕はそれこそ放っておけば2週間以上平気で自慰などせず過ごるほどに淡白な人間だ。それがヴィクトルとの同居により週に一度意識的に抜かなければムラムラしてしまう体質になり、ヴィクトルとの関係の進展を望む頃には週に何度か自身を慰めるようになった。しかしヨーロッパ選手権三日前の夜に、僕はヴィクトルに説教され、自身が置かれた状況を思い出し、心も新たに四大陸選手権へ向け禁欲生活を始めたのだ。
だというのに、僕のその決意も虚しく、僕の禁欲生活は三日で崩壊した。

僕が今まで息をするように行ってきた「大会前一カ月間の禁欲生活」はヨーロッパ選手権の日を境に崩壊したのだ。ヴィクトルのせいで!!

僕は確かに童貞だ。だがしかし童貞だからこその「夢」や「妄想」というものがあり、僕の「夢」や「妄想」のすべてはヴィクトルへと向かっていた。
もう僕が何を言いたいのか分かるだろう。
ヨーロッパ選手権でみたヴィクトルは、僕にある一つの光景を思い出させたのだ。それは僕の初恋の相手、若き日のヴィクトルだ!

キラキラと輝く銀の髪をなびかせて氷上を自由に駆ける僕の天使!

「初恋の相手は特別」というが、まさにその通りだ。
僕はヴィクトルを愛しているが、髪の長いあの頃のヴィクトルに対する思い入れは自分でもドン引くほどだ。
そんな僕の目の前で、懐かしのナンバーを若き日を彷彿とさせる滑りでもって演技された日には、僕がどうなるのか説明するまでもないだろう…。

もう感動の嵐だよ!
とても言葉などでは言い表せないこの思い!!

まさしく「愛」だ…ッ

LOVEだよ、LOVE!!

分かるかなぁ~。いや、一般人には分からないだろうな…。そもそも一般人には事の重大さが、伝わってないんだよ。
みんなせいぜいヴィクトルのこと「スケートが上手」とか「リビンクレジェンド」とか「世界選手権五連覇の人」とか「超絶美形」とか「スケーターでモデルで俳優」とかその程度の認識なんでしょ?

ダメ!全然ダメ!分かってないよ…。スケオタはギリギリ分かってるかなぁ~。
いや、しょせんは「スケオタ」だもんね。ヴィクトルのスケーターとしての「力」や「美しさ」は理解できても「選手」としての彼の凄さは分からないだろうな~。

だって「スケオタ」だもん。

君たち、競技に出たことないよね?テレビの前で応援してるだけでしょ?確かに、毎回リンクまで応援しに来てくれるファンだっているけど、選手じゃないもん。
戦ったことないでしょ、ヴィクトルと。
同じリンクで同じ瞬間に滑ったことないでしょ?

同じ大会にでたことあるの??

所詮は「フェンス越しの愛」なんだよ。境界線っていうのかなぁ…。住む世界が違う、みたいな?
ごめんね、でも本当に、全然、分かってないから!!

何が起きたのか正しく理解できたのって、クリスやユリオ、それに僕みたいな選手兼ヴィクオタ。それに古株の大会関係者や、ヴィクトルをずっと追いかけてる報道関係者だけなんじゃない?
要はこっち側の人間ってことだ。

僕たちの目から見たヴィクトルはね、いま、とんでもないことになってるんだよ!!

元々、若ヴィク時代からリンクの上で圧倒的な美しさを放ち観客を魅了していたヴィクトル。
彼のデビューは鮮烈で、スケート界に激震が走ったほどだ。そんなヴィクトルだからして、世界ジュニアで歴代最高得点を叩き出す前から大注目の選手で、ジュニアに上がって直ぐの頃からファンがついていた。
まさに世界に愛されるために生まれてきたような人なのだ!

リンクの上だけに留まらぬ若ヴィクの美しさに、誰もが彼に夢を見た。
15の頃には余りの美しさに「天使」と呼ばれ、その天使の姿そのままにシニアデビューを果たし、全世界が彼に恋をした…!

ダメだ…!!思い出すだけで興奮が治まらない…。涙が溢れてくるッ
この「キモチ」が、にわかファンの君たちに解かるか!??分かるわけないだろう?
君たちはヴィクトルの成長を知らないんだよ!!
上辺だけ見て分かった気になってるだけなんだよッ
特集記事見て、ヴィクトルの成長変遷を写真なんていう薄っぺらいアイテムで斜め読みして分かった気になってるだけなんだよ!!
動画だって同じだ…。あの瞬間、あの場所にいてこそ伝わるものがあるんだよ!まぁ、ヴィクトルの場合、その天才的なセンスと才能から記録媒体を通してですら僕たちに感動と興奮を伝えてくれるわけだけれども、それに胡坐をかいてちゃ「ヴィクオタ」なんていえないよ。

ほんと、呆れるよ。
そんなんだから「新生ヴィクトル・ニキフォロフ」なんて言っちゃうんだよ。

ちがうよ、そうじゃない。ヴィクトルは生まれ変わってなんていない。
僕たちが今まで見てきたヴィクトルは、ヴィクトルの一部に過ぎなかったてことさ。

若ヴィク時代。ヴィクトルはその美しさで「天使」ともてはやされた。成長するに従い、洗練されていくスケーティング。向上する技術力。そして独創的な衣装は、彼にしか作れない世界観を体現し、やがて大人になった彼は美しさをそのままに、「天使」から「色男」になった。
ハッキリ言おう…。ヴィクトルは男の僕から見てもカッコイイ!
非の打ち所がない!
完璧だ!!
だが完璧なのは容姿だけではない。成長した彼のスケーティングもまた、あらゆる要素が完璧であった…。

僕たちが最後に目にした「ヴィクトル・ニキフォロフ」は、リンクの上で近寄りがたいほどの神聖な空気を纏い、彼が生み出した天井からの調べと共にその圧倒的な美しさでもって観客を魅了した。
スケーティングは「皇帝」の名にふさわしく細く研ぎ澄まされ、エッジが氷を削る音すら芸術の域であった。すべてが予定調和。ジャンプやスピン、ステップ、エッジワークなどあらゆる要素が繋ぎの部分に至るまでGOE+3を叩き出し、こちら側の人間を圧倒した。
まさに神の域だ…。
彼は人間ではないのではないか…?
僕たちは一体なにをみているんだ。

完璧を通り越し、神の域に達した彼に、こちら側の僕たちはただ立ち尽くした。

君たちは普通にキャーキャーいってただけだろうけど、あの頃も大変なことが起きてたんだからね??分かってないと思うけど!!
一度でいいから真剣に得点みてくれるかな!??
もう人間じゃないよね??

ヴィクトル・ニキフォロフは人間じゃなかったんだよ!!!
本当だよ。あの頃の彼は人間じゃなかったんだ…。

いまなら分かる。あの頃の彼は、笑顔を浮かべているくせに、氷上にいてもちっとも楽しそうじゃなかった。美しく整った顔に浮かんでいたのは笑顔なんかじゃなかったんだよ。

世界中を振り回す傍若無人な皇帝は、音も光もない凍てついた世界で一人、泣いていたんだ。

その事に気付かせてくれたのがヨーロッパ選手権でみた「ヴィクトル・ニキフォロフ」だ。
ここまで話せばもうわかるだろ!??
僕のヴィクトルが帰ってきたんだよ!!

僕たちの、あの「ヴィクトル」が、帰ってきたんだ!
僕が恋したあの「ヴィクトル・ニキフォロフ」が、圧倒的な技術力と美しさと、零れるような笑顔を引っ提げて帰ってきたんだ…。

言葉では言い表せないこの思い!!
僕は泣いたよ。観客席で泣いたよ。




ヴィクトル!
僕はずっと長いこと貴方を見てきたけど、成長するにつれて少しずつ失われていった可愛い笑顔や無邪気な姿。それにあの弾けるような輝きたちは、ヴィクトルが大人になることと引き換え手放したものなんだと思ってた。
でも違ったんだね。
ヴィクトルはずっとヴィクトルのまま、一人で苦しんでいただけだったんだ。なにも失ってなんていなかったんだ!

ようやくヴィクトルは「ヴィクトル」に戻れたんだ。
僕は今日という日を一生忘れないよ!!


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


あの日を境に、僕は人知れず坂道を一人転がり落ちていった。
僕の右手にあるエンゲージリングは、僕に都合のいい妄想を抱かせるには十二分だったし、それを止められるはずのヴィクトルも僕の異変には気付けなかった。


選手兼コーチなんて、またしても新たな偉業を達成しちゃうねヴィクトル!
でもそれは同時に僕の金メダルが困難になるということで、金メダルがなきゃ師弟関係も終わらないわけで、おまけに僕はコーチ料が未払いのままだ。

つまりヴィクトルはずっと僕と一緒ということだ!!
なんて遠回しで過激な愛情表現なんだろう…。
これは一生ヴィクトルから離れられないよね。
なによりヴィクトルは僕に云ったんだ。「ユーリは俺のLOVEとLIFEなんだよ」って。

僕と共に長谷津で過ごしたことでヴィクトルは2つのLを取り戻した。
そして僕と一緒にいることでヴィクトルは日々新しい驚きと感動に出会い、心を揺さぶられ、新たな感情と出会えたのだと語ってくれた。
今回のヨーロッパ選手権でヴィクトルは完全に復活した。新しく新鮮な感情を受け入れ、それを作品として昇華することに成功したのだ。

ヴィクトルの新しい伝説が、またここから始まる。

その瞬間を一番間近で見ることができるなんて、僕はなんて幸運なんだ…!!


今回のヨーロッパ選手権のヴィクトルの滑りを受け、世界はヴィクトル・ニキフォロフの復活に沸き立ち、1か月後に控えた世界選手権を前にヴィクトルの新しい写真集の発売も決定した。ノービス時代から現在に至るまでの彼の写真を一挙に集めたもので、全4巻が発売される。
1巻の発売日は狙いすましたかのように世界選手権の初日だ。

『沈まぬ太陽/終わらぬ夢 〜ヴィクトル・ニキフォロフの軌跡〜』

最終巻が発売される頃には、世界選手権6連覇の偉業を達成した28歳の彼までをも収録した内容になるという実に憎い内容になっているのだから、僕が全巻予約したのは言うまでもない!
新聞の片隅にしか載らなかったようなノービス時代の彼の写真まで徹底的に収めたという珠玉のシリーズだ。新聞の切り抜きや、ネットの荒い画像でしかみられなかったヴィクトルが最高の状態で見られるのだ!しかも24時間、1年365日いつだって見放題!触り放題!!

夢のような日々だ…。

ポスターに使われた写真だって収録されている!
市場に出回っているヴィクトル・ニキフォロフを国家権力により一冊にまとめ上げたのが『沈まぬ太陽/終わらぬ夢 〜ヴィクトル・ニキフォロフの軌跡〜』なのだ!!

スパシーバ!
バリショーェ スパシーバ!
ロシア、アグロームノェ スパシーバ!
スパシーバ ザ フショー!
ブラガダリュー ヴァス!!!



僕の名前は勝生勇利。
信じられないかもしれないけど、フィギュアスケート界のリビングレジェンド皇帝ヴィクトル・ニキフォロフのフィアンセだ。
普段の僕は世界選手権五連覇を目指すしがないフィギュアスケーターとしてヴィクトルコーチの元、日々練習に励んでいる冴えない日本の特別強化選手なんだけど、実は夜はヴィクオタとして活動しているんだ。
「ヴィクトル・ニキフォロフ」それは僕の欲望の名前だ。

フィアンセのオタクをしているなんて意味わかんない?
いいや、分かるよ。

分からない君の方がむしろわかんないよ。



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