|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
続きだよ
ケイネス殿に姉弟がいることは簡単に調べがついた。
二人はともにテニスをしており、姉のソラウは現在、女子大に通っているらしい。
つまり二人が恋愛関係にないことが明らかになったわけだ!
これはめでたい!
喜ぶべきことだ!
だが何故だろう…。姉弟ならなぜあの時ケイネス殿は言葉を濁したのか。
(やはり何かある)
それに今生でも彼女は女だ。大抵の女性がそうであるように俺を好きになる可能性がある…。
これは何としても回避しなければならない。なぜなら、俺はケイネス殿を義理の弟にもつ予定などサラサラないのだから!
それにあの電話の様子から察するに二人の姉弟仲は良くないように思える。
そんなこんなで俺が頭を悩ませている間にも大会の日は迫り、なんの対策も考えつかないままに、俺はケイネス先輩の応援に大会会場にくることとなった。
ケイネス殿を応援する…ただそのためだけに。
実に馬鹿である。
かつてのケイネス殿ならば「この愚か者がっ」と俺の真心ごと一刀両断していただろう。
そしてそんな俺を彼女が庇い、彼女に思いを寄せるケイネス殿は俺を疎ましく思い、あのような結果となった。
なにか一つでも違っていれば、結果はまったく別のものになっていただろう。
聖杯はすべてのものに平等に勝利のチャンスを与えているというから、その言葉を信じるのであれば、私たちは恋愛トラブルによってゲージを調整されたといってもいい。
実際、どの陣営もそれぞれ問題を抱えていた。
それをどのように対処できたのかで、あの結果が出たともいえる。
そしていま、まさに、今生においても、俺はその対処を迫られることとなっていた。
(おぉ神よ…!なぜこんな事にっ)
目の前にはあの頃と寸分違わぬ彼女がいた。取り巻きに囲まれながら悠然と腕も組む彼女の姿は、いつぞやケイネス殿を見下した時のように冷めた目をしていた。
そういえば前世の彼女は19だったから、今生で21である彼女の方が大人びて、かつ、威圧感に溢れ、冷ややかな眼差しには侮蔑の色が…ん?
(彼女のこの眼差しには覚えがないな…)
俺の美貌(自分で言ったらオシマイだが…)に彼女の取り巻きたちが奇声をあげ色目きたつ中、彼女だけが冷めていた。
そして「ふっ…」と嫌味に笑んだあと、
「なるほど、噂通りね。確かにあなた美形だわ…ムカつくほどにね!」
あ、あれ??
なんか、憎しみの眼差しを、向けられて、いるのですが??
彼女から向けられる攻撃的な、そして否定的な眼差しに困惑し固まる俺。
この展開は予想していなかった!!
(まさか女性からこんな眼差しを向けられる日がくるなんて…ショックだっ)
こんな時、どうしたらいいのか見当もつかない俺は、愛想笑いでやり過ごそうとしたのだが、それがまた状況を悪くするのだった。
「ヘラヘラと馬鹿みたいに笑わないでもらえるかしら。不愉快だわ」
「す…すみません…」
蛇に睨まれたカエル状態で萎縮する俺。対処法もまったく頭に思い浮かばず、直立不動でビクビクしながら固まるしかない。
(なんでこんなことに…。け、けいねす殿ぉおお!!!助けてくださいっ)
俺の思いが通じたのか、はたまたこうなる事を予想済であったのか、救世主は俺の名を呼びながら走ってやってきた。
「ディルムッド!!大丈夫かっ」
「ケイネス殿ぉおおお!!」
迷子の犬が主を見つけたとき、きっとこんな気持ちなのだろう。俺にしっぽが生えていたら、全力で振っていたはずだ!!
息を切らせ俺を迎えにきてくれたケイネス殿は、そのまま俺を自分の背に庇うように立ち、彼女との間に割って入った。
まるでナイトのようだ!
ケイネス殿にこんな風に大切にされたことのない俺は、これまた感動と混乱で固まるしかなかった。
無力な俺をどうか許してください。
だが現実はそんな俺を無視してどんどん進んで行く。ついていけない俺は一人取り残されるわけだ…。
「ソラウやめるんだ!こいつは君が思っているような男じゃない!大丈夫だっ」
「あら、お優しいこと。後輩を守ろうっていうの。でも私は騙されないわよ!」
「信じる、信じないは君の勝手だが、ディルムッドは変態なんだ!だから君の恋人を奪うようなことは絶対にない!!断言出来るっ」
なぁ、そうだろ!!
と俺を振り返り同意を求めるケイネス殿は真剣そのものだった。
だが色々と同意し辛いものがある。「恋人」とか「変態」とか…。
「すいません…まったく話が見えてこないのですが…」
「君に自覚はないだろうが、君はソラウの恋人に一目惚れされているんだ。それで恨まれている…」
あ、あたま痛くなってきた。
ケイネス殿の言葉に半分だけ話が見え、三角関係の臭いを嗅ぎ取った俺は眉間にシワを寄せ頭を抱えた。そんな俺に「どうした!また例の発作か!?」と肩を揺するケイネス殿!
優しいです。
でもさっき俺のこと「変態」っていいましたよね??
「俺が変態って、どういう意味ですか?」
息も絶え絶え問いかける。これだけは聞いておかねばなるまい、二人の将来のためにも!
「あぁ…それは…。その、私も姉がアレだから、なんとなく分かるんだ。おまえ、ゲイだろう?」
安心しろ、私は差別などしない。
そう続けるケイネス殿の空色の瞳はどこまでも透明で労わりに満ちていたが、違う!!まったく違います!!
「俺はゲイじゃありませんよ!」
「嘘をつかなくても大丈夫だ。容姿のせいで女性に言い寄られて気の毒だとさえ思っているくらいだ」
「いえ、嘘じゃないです!」
「だが、君は私のことが…その、気になるんだろう?気持ちには応えてやれないが、無下にするつもりはないぞ」
あ、もうダメ。ワケわかんないです!!
全然意味がわからないです!
「確かに俺はケイネスどの…じゃなくて、先輩が好きですが、でも変態じゃありません!男か女かときかれたら、俺は女を選びます!」
「ディルムッド…それは…最低だな」
「そうよ、この節操なし!!」という呪われし名をもつ彼女の声も合間って、俺は二人から冷たい視線を向けられることとなるのだった。
なにがどうなっているのやら…。
どうやら俺とセイネス殿と呪われし名の彼女はどこにいっても恋愛トラブルに見舞われるらしい…。これはもう聖杯とか一切関係なくだ。
ソラウ様は今生では俺に恋することはなかった。なぜなら彼女は女性が好きだからだ。
しかしこれに俺は驚かなかった。
なぜなら、思い返してみるに、前世は黒子の力で恋をしていただけで、あまり異性に興味はなかったように思えるからだ。
自由になった彼女は実に生き生きと自由に生きていた。
そしてケイネス殿も、いまの人生を謳歌していた。ソラウという名の自らの欲望に正直な変態の姉に虐げられつつも、対等な関係を築いているように見える。
ケイネス殿いわく、「姉には昔から振り回されてばかりだ」ということだったが、美人で頭が良くてワガママで傲慢で女王様で、弟の友人(それは女の子だ…)にちょっかいをかけるようなハーレム女だが、前世を知っている俺に言わせれば幸福そのものだ。
そして俺とケイネス殿も、多少はその関係が前進したといえる。
少なくとも、あの後、俺は「ゲイ」と「ホモ」の違いをケイネス殿に説明し、ケイネス殿は俺のことを「ホモ」だと認識している。
『ゲイは男が恋愛対象!ホモは好きになった相手がたまたま男だっただけ!
いいですか、俺は結論からいけばホモなんですっ』
今はこれで我慢しておこう…ははは。
PR