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他人に恋愛感情を持たない扉間の話

マダラを見るたびオレの心がざわつくのは、きっとアイツがオレの知らない世界を見ているからだ。
マダラは兄者に「恋」をしている…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


オレは他者に対して、恒常的に恋愛感情を持たない人間だ。いわるゆ無性愛者である。

故にオレは恋愛ができない。

わかりやすく言い換えれば、誰にも恋しないのだ。だから「初恋」もオレの人生には存在しない。まぁ、特定の誰かを恋い慕う感情が欠落しているのだから当然だが…。

ここまでいうと、まるでオレが人非道な冷血漢で精神疾患の類をわずらっている気の毒な男のように思えるだろうが、違う。そうではない。
誤解されたくないから言っておくが、オレは恋愛感情を持てないだけで、その他もろもろの感情はしっかり持ち合わせている。

家族や仲間に対する愛情。
里を大切に思う気持ち。
動物や幼子を見て愛しく思う心。

弟子たちの成長を願う親心だってある。その上、兄者より機微にも敏く、空気も読める。
オレの精神構造にはなんの問題もない。

しかし誰にも恋しない。

「恋」をして正常な判断ができない状態に陥らないため、特定の人間と一緒にいたいという感情も湧いてこない。オレの時間はオレ自身によってのみ管理され、仕事や研究のため以外に使われることはないのだ。
それ以外のために消費される時間は「無駄」
であり「苦痛」であるとオレは断言できる。

だからオレは体裁を取り繕うためだけに仮初めの恋人をその都度探してくることもない。よってオレは常に一人だ。

誰とも付き合えない。付き合わない。

しかし肉体的にはそういうわけにはいかない。
オレの体は健全な成人男性の機能を備えており、定期的に性欲処理をしなければ不都合が生ずるのだ。何が起こるのかは察しろ…。
よってオレは定期的に色街へ足を運ぶ。そしてこれにより、オレは恋人がおらずとも世間から「男」として後ろ指をさされる事態を回避できているのだ。

そう…、うちはマダラに持ち上がる不能疑惑…。それは他人事とはいえ、オレも眉をひそめずにはいられない。もっともオレの場合、眉をひそめる理由は世間のソレとは理由が異なるわけだが…。

とはいえ肉体的に不具合がないのならマダラとてオレのように里において「来る者拒まず、去る者追わず」にすれば良いものを、融通の利かないあの男は一人の人間に操を立て、律儀に孤独を貫いている。
それを横目にオレは女たちの夜這いに応じ、色街へ顔を出し、世間とは異なる己の性癖に折り合いをつけながら生きている。

そう、これは「性癖」なのだ。

無性愛は、異性愛、同性愛、両性愛と並ぶ4番目の性癖であり、たまたまこれに属する人間が極めて少ないがために、世間一般に認知されず、また戦国の世にあって「愛」や「恋」などという夢想的な感情よりも一族繁栄のため子孫を残すことを義務付けられ育ってきた我々にとってチリほどの価値もない性癖なのである。

だからオレはこれからも立場に応じ、必要に応じ、臨機応変に夜の営みをしていくだろう。しかし終生独身を通すし、恋人も作らない。
そしてオレはこの事実を誰かに伝えることはないし、まして誰かに相談することもない。

もちろん多少の生き辛さは感じている。だがこの事に対して不思議と不安はない。
もちろん他者とは違う自分自身への失望もない。

これが「オレ」という人間であり、誰にでも存在する「短所」であると認識しているからだ。それ以上でもなければ、それ以下でもない。
結論が出ていれば迷うこともない。

少なくともオレはそうだ。
ではマダラはどうなのだろう…。

あの、何かにつけて誰かとぶつかり諍いを起こし、人の心を波立たせる赤い目をした孤独な男はどうなのだろう。
ヤツはとても生き辛そうに見える。

(恋とは…)


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


マダラを見るたびオレの心がざわつくのは、きっとアイツがオレの知らない世界を見ているからだ。

マダラは兄者に恋をしている。

兄者は男で、マダラも男。しかしやつは同性愛者ではない。その確信がオレの中にはある。

ヤツはただ恋をしているだけなのだ。
兄者を愛しく思っているだけなのだ。

「恋」とはなんだ?
「愛」とはなんだ?

それはオレの知らないモノで、誰もが体験するものであるにも関わらず、永遠にオレの元にやってくることはない。

オレの憧憬は他の誰でもないマダラの中にこそ存在している。
それに気がついたとき、オレの視線はマダラを追うようになっていた。

(恋とは…)

あの男なら、オレの疑問に答えることができるのだろうか…。

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