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続き。そんなに良いお話じゃない。

世捨て人のように日に日に喜怒哀楽の無くなって行く弟に胸を痛めていた。
一族のため、兄のため…と自分を犠牲にして尽くし続けた健気な弟であった。代わってやれるものなら、その傷の痛みだけでも、その身体の不自由さだけでも代わってやりたいと思った。

この閉じかけた瞳には、弟の苦しむ姿すら霞んで見える。



里外の任務から帰ってみると、何があったのかイズナが珍しく不機嫌そうにしていた。少し掠れた声に「風邪でもひいたのか?」と問えば、「少しね…」と首に巻き付けた襟巻きに顔をうずめながら言葉少なに返してくる。
弟のこんな様子は珍しい。
健康であったときでさえ見たことのない様子に、俺は酷く戸惑い、不在の間の出来事を事細かに部下に問いただしほどだ。

すると俺が不在の間にイズナの調子が悪くなり夜半に扉間が薬を届けに来たというではないか。その話を聞き、ようやく俺はイズナの不機嫌の原因を理解した。

思えばしきりにイズナが扉間の様子を訊ねてきたのであった。

(何かあるとは思ったが…)

扉間の届けた薬が良かったのか、イズナはその夜から苦しげに呻くこともなく、穏やかに眠っているという。仕方なく俺は扉間に薬の礼を言い、頭を下げた。
すると扉間は扉間でイズナの様子を仕切りに訊ねてくるではないか。

「貴様にも『良心』というものがあったのだな」といってやれば、複雑そうな顔をして黙り込んでいた。


それから暫くして、また俺の不在中に扉間が薬を持ってやってきたという。
随分と熱心に薬を届けにくるものだ…と思っていたのだが、どうやら熱心だったのは薬だけではなかったらしい。

その数日後に柱間と扉間が雁首揃えて俺を千手邸に呼び出したのだ。
普段、目が不自由であることをお首にも出さない俺であったが、低下した視力は確実に俺の行動に影響を与えていた。現に「写輪眼の特効薬ができた」と言われ、渡された薬が、単なる点眼薬にしか見えないのだ。

「ほう…これがなぁ…」

俺の様子に痺れを切らした扉間が言うには、柱間の万能細胞をナノレベルまで分解し目薬に溶け込ませた新薬なのだという。

「これに柱間の細胞がなぁ…」

柱間自らが行った治療でさえ治らなかった目だ。俄かには信じ難い。「まずは一週間、一日三回ぞ。試してくれ」と柱間に言われ、仕方なく俺は点眼薬を受け取り律儀に点眼を始めたのだった。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

点眼薬を作ったのは、いわゆる「気紛れ」というやつだ。なんとなく、本当になんとなく作りたくなったのだ。
他のどの研究を差し置いてでも…。

写輪眼については独自に研究を重ねていたため、兄者の力でマダラの眼が治らぬと分かった時から、この方法しかないと確信していた。
しかしこのご時世である。
同盟も里も、明日をも知れぬ綱渡りのような状態で、なぜうちは一族の息を吹き返させるような特効薬など作らねばならない?

むしろ作らないほうが世のため人のためというものだ。

だからずっと放置していたのだが…。
イズナが酷く情熱的にオレを求めるのだ。顔の判別すらついているかも怪しいような瞳で、オレを見つめながら「とびらま、とびらま」とせがむのだ。

あの日以来、イズナはどうあってもオレに最後までさせたいらしく積極的に行為に臨んでくる。
白く細い腕がオレの頭を掻き、抱き身悶えする姿にはさすがにクるものがある。だがオレは敢えてイズナとの一線を越えず、のらりくらりとかわしていた。

恐らくイズナにとってはコレが唯一の捌け口なのだ。

もし最後まで致してしまったら、いったいどうなってしまうのか、オレには想像もつかない。ただ分かっていることは、『敗者』としてオレを受け入れているイズナにとって、それは一つのゴールのようなものなのだろう。イズナは只ひたすらに楽になりたいと願っている。
どんな形でもいいから『終わり』が欲しいのだ。

では『終わり』がきたらどうなるのか…。

長く形の良い脚が、オレの腰を逃すまいと抱え込んでくる。
別れ際、「次はいつ会えるの?」と意味深な笑みを向けてくる。
正直、ここまできてイズナの柔らかな股に擦りつけるだけで我慢できるとは思えなかった。

次にイズナに会った時、自分は果たして我慢できるのだろうか。

「ほしい、ほしい」といってイズナははしたなくソコを見せ付けてくるのに、このまま終われる気がしなかった。

こうしてオレは早急にイズナを追い詰めている原因の一つである『失明』という現実からイズナを解き放つことを実行に移した。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

扉間に渡された点眼薬を用法用量を守り使い続けて二週間。やはりダメだったか…と諦めかけた俺の目に劇的な変化が訪れた。
なんと久々に視界がクリアになったのだ!

寝起きに感じたこの変化に、俺は喜び勇んでイズナの部屋へと走った。そこで目にしたのは、すこし見ない間になんとも艶っぽくなったイズナの姿だった。

寝たきりの状態が三年余り続き、食も細くなり口数も少なくなったイズナだったが、ここ暫くはどこか活き活きとした様子で、点眼薬のことを話すと我が事のように喜び「兄さんの目が早く治りますように」と、俺の瞼にキスをしてくれた。

最近では間近に見る顔さえぼやけ始めていたが、今では兄である自分でさえ見惚れるほど美しく成長した弟の姿が見てとれる。

何もかもが良い方向に向かっているように思えて、俺は素直に扉間に感謝した。

「直ぐにお前の分も作ってもらえるよう扉間に頼んでやるからな」
「ありがとう、兄さん」

ふふ…と微笑むイズナは、本当に綺麗で、俺は最後にこの目で見たイズナとの違いに少しばかり戸惑うのだった。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

兄さんに「最近、活き活きしている。元気になってきている証拠だ」と言われた。原因があるとすれば間違いなく扉間だろう。
そういえば最近、身の回りの世話をしにくるもの達にも「綺麗になった」と驚かれる。

どうやら人間、生き甲斐があると輝いて見えるようだ。

もっとも、その「生き甲斐」は人に語って聞かせられるような健全なものではないのだけれど…。
なにはともあれ、「目標」を持つことはいいことだ。そして僕はこの「目標」を達成するためならどんな手段も厭わない程、プライドをかなぐり捨てて挑んでいた。

この馬鹿げた「目標」を兄さんが知ったら、きっと絶望するだろう。どうして、なぜ、と泣き叫ぶだろう。
僕は僕自身に終止符を打ちたいのだ。うちはと千手は同盟を結び、決着は有耶無耶になったけれど、僕と扉間の決着はついている。

僕は勝者の前に跪き、潔く負けを認めたいのだ。

三年という歳月は僕からいろいろなものを奪っていった。夢も希望も自由も、何もかもだ!

こんな激しい感情が自分の中にあったことにすら気付かぬまま、三年という月日を無為に過ごした自分が情けない。一族の中では穏健派といわれた僕にも、やはり兄と同じ「うちは」の血が流れていたのだ。

兄は今夜、会食で遅くなるという。
おそらく今夜あたり扉間はやって来るだろう。

僕は最後にこの目でハッキリとみた扉間の顔を思い出し、クツクツと笑った。三年も前の扉間の姿など、今のあの男の姿からすれば青臭い子供のような姿なのかもしれない。
それでも自分は未だに瞼の裏のその姿を重ね、あの男に抱かれているのだ。
これが笑わずにいられるか?

この世界で僕の時間だけが止まっている。
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