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一人暮らしを始めた扉間が一匹の黒い猫を飼い始めるお話。
イズナ生存ルートで、マダラの里抜けもありません。





「色男」というには些か厳しく、「美丈夫」というには体格がいい。怜悧さばかりが目立つ銀髪の男が、雨の中、番傘をさし寝座へ向かって歩いている。
常と同じ、平時の洋装で、雨の中、急ぐでもなくどこかゆったりとした足取りで緩やかな坂を登って行く。
木の葉の里の少し外れ。竹林に囲まれた緑の深い小高い丘の上に、男の寝座は建っていた。築半年という平屋の一戸建ては、男一人が住むには充分すぎる広さであったが、半年前まで男が暮らしていた屋敷と比べれば随分貧弱な家であった。

男の名は千手扉間。
木の葉の里、里長補佐の一人であり、次期火影と囁かれる人物でもあった。

職場である中央本部棟から寝座まで、のんびり歩いて30分。出来たばかりの里はまだ規模も小さく、小高い丘の上にある庭からは里の外れといえど、かつての我が家と職場を眺めることができた。
男は玄関のひさしの中に入ると傘を畳み、家の中へと声をかけた。

扉間は確かに一人暮らしだったが3日ほど前から猫を飼っているのだ。

黒い毛並みのその猫はいまが盛りとばかりに美しいオス猫で、しなやかな動きに合わせてユラユラ揺れる尻尾がなんとも言えず妖しげだった。
その上、わざとらしく「にゃあ」と鳴いて見せるのだから小憎らしいことこの上ない。目元に浮かんだ笑みが実に意味ありげで、追い出すことも歓迎することもできぬまま、扉間は済し崩し的に、その黒猫と一つ屋根の下に暮らし始めたのだった。

「いま帰った」

扉間の声が聞こえたのだろう、黒猫は怠惰そうに居間から顔だけを出し、「おかえり」と返した。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

四人の子を成し、二人の子が成人した。
父はそのことを何より誇りに思っていた事だろう。
戦国の世にあっては、子など何人いようと安心できない。一寸先は闇。親を残して子が逝くのが、当時の常であった。

そんな世にあって「忍の神」とまで呼ばれた兄者は里を起こし、こうして平和な時代が到来した。問題は未だ山積し、小競り合いは続いているが、戦国の世が終わりを迎えたことは誰の目にも明らかだった。
そして里が起こって5年目の春、兄者はとうとう他国から嫁をもらい里長としても族長としても、そして男としても腰を落ち着けるに至った。

うちは贔屓の兄者が他国から嫁を娶ったのだ。

この事に多くの者が驚いた。千手の中にさえ「柱間様は、うちはから嫁を貰うのでは?」と囁かれるほど、兄者とマダラの仲は親密であったからだ。
実際のところ、オレはマダラこそ兄者が添い遂げたい相手なのではないのかと勘ぐっていた程だ。弟の目から見てさえ、二人の仲は異様なほど近かった。

その原因が仮に過去にあるとしても、それを加味してなお、二人の仲は親密すぎだ。

そんな兄者が突然嫁をもらった。
一生兄者が独り身を通すのではないかと思っていたオレは、いっそ兄者の正気を疑った程だ。

兄者とマダラの間に何かあったのではないか?
いや、何もなかったからこそ、兄者も踏ん切りがついたのではないか?
いやいや、これもすべては謀なのではないか?

オレの疑心暗鬼をよそに兄者はミト殿とめでたく結婚し、今は千手邸に二人で仲良く暮らしている。
ではマダラは…?

オレの不安や危惧をよそに、マダラと兄者は相変わらずの仲を保っていた。
嫁を迎えようとも、兄者にとってマダラは特別らしい。ミト殿も夫の無二の友を笑顔で迎えている。

しかしマダラはいまだ独り身だ。
そしてマダラの弟、イズナもまた独り身である。
ちなみにオレも独り身だ。

なぜこうも重役に独り身が多いのか。

兄者の結婚を機に家を出るといったオレに、兄者は控えめに「扉間もそろそろ嫁を迎えてはどうぞ?」といってきた。
オレはそれに無言の笑顔で対応し、次いで「オレの家は里の外れの竹林に頼む。平屋でこじんまりしたのがいい」と応えた。

「なんぞ!?まさか、俺が作るのぞ??」
「当たり前だ。兄者の木遁なら1分で終わる」

こうして兄者の祝言を前に、オレは千手邸を出て、生まれて初めて独りで暮らすことと相成ったのだ。
それが半年前のこと。

以来何度となく女がオレの家に夜這いにきた。
「忍の神」が結婚し、玉の輿を諦めた連中は多かったが、強かな者は次の獲物に早速とばかりに目をつけたようだ。

もちろん、うちは邸にもこういった手合いは現れているようだが、マダラがこれをどのようにあしらっているのかは、オレにも想像がつかない。うちは邸にはイズナもおり、果たしてどちらが獲物になっているのかさえ、オレには見当もつかなかった。

もっとも、血系限界を重んじる「うちは」のことだ、夜這いに応じたとしても子が出来るなどという失態は犯すまい。

実際オレも、夜這いにきた女の相手はすれど、女の中で果てることだけはしなかった。


そしてその日も、夜半から降り出した雨音に混じって女の気配が近づいてくる事に気付いたオレは、薄っすらと目を覚ましたのであった。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

通常、忍は平時であっても深い眠りには入らない。ましてや戦場で幼い日々を過ごした者にとって、それは極々当たり前のことであった。
坂道を上がってきた女の気配は、常の夜這いとどことなく趣が違い、オレは浮上した意識が再び沈んでいくのを感じていた。次に感じた女の気配は庭にあり、そぼ降る雨の中、傘もささず歩いてきたことが知れた。
近づけば近づく程、女に対する警戒は薄れてゆく。常のような警戒心がなくなっている自分に、夢現の中、驚くが、それでもまだ身体は起きない。目も開かない。

やがて女が縁側に上り、オレが眠っている部屋の障子をすっ…と引いた時。オレは自分がこの女を抱くことになるだろうと直感した。

姿も声もなく、匂いすらしない。そんな夢幻のような女であった。
ただ感じるのは線の細さと、しなやかな身のこなし。そして本能に訴えかけてくるような抗いがたい色香。

年は若いのだろうか…。
自分よりも些か年下に感じられるような気がするのだが。

明かり一つない部屋で、女は迷うことなく雨に濡れたままの姿で布団の中に入ってきた。それは「忍び込む」というものではなく「入ってきた」としか言いようのない所作であった。
まるで勝手知ったる…と言わんばかりの女の行動に、オレはその時、この女が誰であるのかを悟った。
悟ったうえで、雨に濡れた寝巻ごと、布団の中で冷えた女の身体を抱きしめた。

腰に触れた自分の手が、女の腰の細さを伝えてくる。

出来ることならこのまま事を始めてしまいたいが、どうにも相手が悪かった。寝起きの掠れた声のまま、低い声音で相手のミスを指摘する。

「術と効果は相手を選べ…イズナ」

雨の中やってきた線の細い美女は、傘もささず濡れた体のまま布団に潜り込んだだけに飽き足らず、障子さえ開け放ったままだった。

「その気にならない?」

次第に闇に慣れてきた目が、シッカリと女を捉える。男のとき同様、その美貌は褪せることなくそこにあった。
細い肩は頼りなく、自分に圧し掛かり抱き付いてくる腕も自分が知っているものよりも細く非力だ。
闇の中、布団に隠れているのを良いことに、足癖の悪い脚が濡れて身体に貼り着いた襦袢の裾を割り、扉間の足へと絡んでくる。押し当ててくる胸は程よい大きさと温もりを伝え、回した腕から感じるイズナの腰の細さと相まって、寝起きの頭を混乱させた。

コレニ手ヲ出シテハ、イケナイ。

分かっているはずなのに、意思が揺らぎそうになる。

イズナはどうしてこうも自分を煽るような真似をしてくるのか。
自分をからかって楽しんでいるのか。
はたまたマダラの差し金か?
それとも、単にオレを試しているのか…。

雨に冷えていた身体はいつしか温もりを取り戻し、扉間の足に絡んでいた脚がきわどい場所を撫で擦り始める。
それと同時に「とびらまぁ…」と耳元で囁く声は女のそれで、どう考えても情事をせがんでいるようにしか思えない。

冷静を装ってはいるが身体の方は欲望に正直だ。
同じ男としてその変化を敏感に感じ取っているであろうイズナはしかし、そんな扉間をからかうこともせず迫ってくる。

ところが悲しいかな…、イズナが「女」を出せば出すほど、扉間の身体は次第に冷えていったのだった。


扉間は今でもその夜の事を思い出しては煩悶としている。
夜這いに来たのがイズナであれば、この夜、自分は迷わずイズナ抱いていただろう。
なぜわざわざ女の姿に変化してやってきたのか。
自分を試していたのだろうか?
どこかの誰かと間違えて手を出すことでも期待していたのだろうか?

いや、そもそも、アレは手を出しても良かったのだろうか…。

イズナの真意が分からぬまま、扉間はその夜、イズナを腕に抱いたまま一睡もせず朝を迎えた。
布団の中では女の生足が扉間に絶えず悪戯を施していた。
だというのに、布団から外に出ているイズナの顔は涼しげで、扉間も意地になって顔色を変えることなく訊ねたのだった。

「こんな真夜中に、何をしに来た」
「兄さんと喧嘩しちゃってさ…。行く場所がないから、きちゃった」
「そうか…」

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