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うちはイズナ様、お誕生日おめでとうございます。(`・ω・´)
(その1)のつづきのつづきのつづき
(その1)のつづきのつづきのつづき
うちは邸に到着すると僕の予想以上に上へ下への大騒ぎとなった。
火影が顔を出すことを、どうやら兄さんは誰にも話していなかったらしい。こんな状況でさえなければ、僕にとってそれは嬉しいサプライズとなっただろう。
木の葉の里長が、自分の誕生日に祝いの品持参で、わざわざ挨拶にきたのだから…。しかもそれは長年の宿敵、千手の族長でもあるのだ。
きっと僕は得意気になって喜んだはずだ。
そしてそんな僕を見て兄さんも「よかったな、イズナ」と微笑んでくれただろう。
そんな夢のような誕生日を、僕は迎えるはずだったのだ!!!
なのに今、僕は、扉間の身体で、柱間の斜め後ろに座り、柱間が『イズナ』に祝いの言葉を述べているのを黙って聞いている。
しかも黙って聞いているだけではない。『イズナ』に目配せして気の利いた言葉を返すよう圧力をかけているのだ。
僕たちが広間に通されたとき、ちょうど宴会は一族の者全員が顔を揃え、皆に酒が行き渡りほろ酔い気分の時だった。
仕事の都合上遅れてくる者もあり、本格的に酒を飲むのは夜が更けてから…というのが去年の流れだったため、今年もそうなると予想していたのだが、大当たりだ。広間を見渡してみれば去年同様、宴席には他の一族からの使者も加わり、酒が入ったことで打ち解けた雰囲気となっていた。
そこへ里長と、卑劣の二つ名を持つ扉間が、祝いの品と共にやってきたわけである。
ほろ酔い気分も消し飛び、居住まいを正す面々に、改めて柱間の持つ「里長」の権限の強さを感じずにはいられない。
それと同時に、『扉間』に向けられる警戒を含んだ眼差しの多さよ…。実に居心地が悪い。
だがその居心地の悪さを上回る喜びが僕にはあった。
僕たちが現れた時の『イズナ』の驚きようといったら!
(これだよ!これが見たかったんだ!!!)
ニヤニヤし始める顔を引き締め、柱間に合わせて頭を下げる。
柱間は軽く頭を下げ「おめでとう、イズナ殿!」と親しげに言葉を締めくくったが、『扉間』はほぼ土下座状態で頭を下げた。
顔を上げて『イズナ』を見てみれば、僕たちが広間に現れた時以上に面白い顔をしていた。
さっきは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、ぷるぷる震えて俯いていた。あれは柱間の登場に相当怒り狂っていたのだろう。
『兄者は自分の立場を分かっているのか!里長ともあろうものが、特定の一族を優遇するなど、あってはならぬことだ!!ましてやうちはなどッ』と、扉間の怒鳴り声が聞こえてきそうである。
だがそんな『イズナ』も『扉間』の登場にはさして驚いた様子を見せなかった。
日中の出来事を踏まえ、こちらの次の動きをある程度予想していたのだろう。しかし、さすがの『イズナ』も、まさか柱間を連れてくるとは思ってもみなかったようだ。
(柱間の分の仕事、頑張ったかいがあったよ!うん、うん。いいねぇ~、その顔!!)
僕の脅しのおかげか、『イズナ』を取り巻く宴席の雰囲気も悪くない。誰もが『イズナ』を祝い、宴席を楽しんでいる。加えて里長と、普段からマダラと折り合いの悪い扉間が顔を出したことで、『イズナ』の株も上がったように見える。
挨拶を済ませ、さっさと兄さんの元へ向かう柱間にはカチンとくるものがあったが、『イズナ』の監視をしなければならない僕にとって、今回ばかりはそれも有難かった。なにせ、僕の今日の最後の任務が待っているからね!!
呼ばれもしないのに『イズナ』の隣に腰を下ろし、『イズナ』に話しかける僕。
「楽しんでる?」
「見ての通りだ…」
僕の言葉に『イズナ』は見るからに機嫌悪く答える。まぁ、これだけのことがあったのだ、当然といえよう。
本格的に酒が振る舞われ始め、『イズナ』の元には代わる代わる人がやってきては杯に酒を注いでいく。それを無言で飲み干し愛想なくやり過ごし、次の杯を受ける。そんなことを繰り返す『イズナ』に僕はとうとう我慢できなくなり、
「あのさぁ、もうチョットなんとかならないの?僕そんな不愛想じゃないよ?」
「こうなったのは貴様のせいだ…っ」
声を抑えていても分かる『イズナ』の不機嫌。おそらく、この辺りが扉間の我慢の限界というやつなのだろう。
(これ以上やってめんどくさくなってもアレだし、この辺にしとくかな…)
普段、冷静沈着な頭脳派ほど、怒らせたときの暴走は手に負えない。
いつ何時であっても自分というものを見失わない扉間であったが、所詮、扉間も人の子だ。自棄を起こして、後先考えず突っ走るときもあるだろう。
(まぁ、そんな扉間なんて僕は一度も見たことないけどね)
扉間は常に冷静で卑劣で容赦なく、人の弱味や隙を突く男なのだ。
しかしそんな扉間にも弱点が一つだけあったようだ。
(この姿で効果があるかどうかは分からないけど…、まぁ、やってみますか)
『扉間』は不機嫌そうな『イズナ』に、『イズナ』にだけ聞こえる声で囁いた。
「プレゼントありがとね。毎年、扉間が選んでくれてたんだね。大切に使ってるよ」
「…っつ」
『扉間』の顔を見る『イズナ』の顔は真っ赤に染まり、その後、口元を押さえながら席を走り去っていった。
そんなイズナの様子をみていたマダラは、持っていた杯を投げ捨て、『扉間』に掴みかかろうとしたのだが…
「大変申し訳ございませんでしたマダラ様!!」
華麗に土下座を決めた『扉間』にマダラは成す術もなく、「イズナに謝っておけよ。イズナが許すまで、俺もテメェを許さねぇからな…っ」と引き下がったのだった。
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
執務室の窓から外を眺めながら、扉間は疲れたように呟いた。
「オレの土下座も随分と安くなったもんだな…」
二月の空気はまだまだ冷たく、吹く風は身に堪える寒さだったが、陽射しだけは温かく、この先に控えている春の日差しを思わせる。
そんな温かな窓越しの陽射しを、扉間は死んだ魚のような目で見ているのだ。
だがそんな扉間と会話するイズナも似たようなものだ。
「何かある事に土下座してるからねぇ…。なんかもう、僕、土下座の王様にでもなった気分だよ。この身体で土下座することに抵抗がなくなってきちゃったもん」
扉間より幾分か明るい声ではあったが、やはりイズナもどこか沈んでいる。
「いったい、いつになったら元に戻れるんだ…」
「そんなこと、僕が知るわけないだろう」
かつて忍僧はこういった。わさび似一本でその効果は二週間続く。食すときは気を付けよ。
「もう直ぐオレの誕生日なんだがな…。どうするつもりだ」
「それよりも前にバレンタインがあるだろ!どうするんだよ。変なやつから不用意にチョコとか貰わないでよね!」
二人の精神はまだ戻らない…
(その3)へつづく
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