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つづき。





「きちゃった」というイズナの言葉が、二人の関係を正しく表しているかというとそうではない。

イズナと扉間は職場の同僚である。
しかしイズナは扉間を嫌い、職場では視線さえ合わせることなく、互いに会話もない。
扉間は職場では、兄であり里長の柱間に小言をいい、頻繁にマダラとぶつかり合う日々を送っている。そんな扉間の日常に「イズナ」はいないのである。

暗黙の了解のように互いに距離を保ち、関わりを持たないようにしているのである。

なぜ?

マダラとでさえ会話をする日々であるというのに、なぜイズナとは目を合わせることすらできないのか。
イズナが嫌がるのだ。
近づけば遠ざかり、声をかければ無視をする。そんな日々が続けば、人間それが普通になってくる。かつての戦場のライバルは、今では顔も合わせず目も合わさず。

だがイズナがそこまで扉間を嫌う理由を、扉間はなんとなく察していた。
なんとなく察し、そしてあえて何も言わなかった。

この件に関してマダラは「イズナは千手嫌いだから」といっているが、実際はそうではない。

現に、イズナは扉間以外の「千手」とは普通に付き合いを持っていた。
要は「扉間」がダメなのだ。
イズナは本能的に扉間を避けている節がある。
そして扉間は本能的にイズナを視線で追いかけている。
どこにいても、何をしていても、視界に入る限り追いかけている。
イズナはそれを嫌がり、扉間を避けているのだ。

結論から言えば「ストーカー」である。

しかしこれらすべてのことは、当人の意識外のところにあり、まったくの無自覚なのである。
そんなわけで、扉間とイズナが最後に職場で「おはよう」と言葉を交わしてから実に五日ぶりの会話が、真夜中のアレだったわけである。

そして翌日の朝。扉間はいつの間にか腕の中で男の姿に戻っていたイズナに声をかけた。

「朝飯、食ってくか?」
「…うん」

こうして雨の日にやってきた黒猫はそのまま扉間の家に居着くことになったのである。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

(どう考えてもおかしい)

扉間はこの半日、同じことを考え続けていた。
今日は珍しく朝から夕方までイズナと同じ部屋で仕事をすることになったのだが、どう考えてもおかしいのだ。

あまりにもおかし過ぎて、扉間は思った。

(家にいるのはイズナじゃなかったりしてな)

狐が何かが化けているのかもしれない。そう考えてしまうほどに、部屋の光景は理不尽だった。
この3日ほど扉間はイズナと寝食を共にしているというのに、職場で会うイズナは以前と変わりなく自分と目を合わせず、会話もせず、近づけば遠ざかり、目も合わせようとしないのだ。
なのに不自然にならない程度に挨拶だけは交わすという徹底ぶりだ。

「おはよう」
「おはよう」

周囲の誰もイズナが意図的に扉間を避けているとは気付いていないのだから恐ろしい。

(これが「うちは」の力か…っ)

思わず舌打ちが出そうになり、口を噤む。
今もイズナは扉間の存在を空気か何かのように華麗に無視して、書類を抱えて目の前を通り過ぎていった。

(一体なにがどうなっているんだ…)

イズナの背中で揺れる一房の黒髪が恨めしい。それは昨日の夜、風呂上がりにいつまで経っても髪を乾かそうとしないイズナに痺れを切らし、扉間が乾かしてやったものなのだ。

家ではあんなに擦り寄ってくるくせに…。

とはいえ、まるっきりお客さん面した居候のイズナは、上げ膳据え膳で、ただ扉間の家の居間でゴロゴロしているだけなのだが。

(どういうつもりなのか、全く理解できん!)

イズナの言によれば、マダラと喧嘩して真夜中に家を飛び出してきたはずである。にも拘らず、マダラはこの3日間常と変った様子はなく、とても兄弟喧嘩しているようには見えない。
何がどうなっているのかサッパリわからないが、とにかく今日も家に帰ったらアレが居間にいるのだ。

猫のように気紛れで扱いづらい、黒い毛色の厄介なやつが…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

昨日の教訓をもとに、扉間はイズナより先に風呂に入ることにした。
イズナを先に風呂に入れると、髪を乾かすという面倒な仕事をさせられるのだ…。この3日間そんな状態だったが、今日の職場でのイズナの態度がどうにも納得できない扉間は子供のように意固地になってイズナから一番風呂をもぎ取っていた。

そもそも居候の身で、風呂が沸いたと同時にスゥーっと席を立ち、無言で風呂に向かうイズナの方がどうかしているのである。
もっとも、それを3日間野放しにしていたのは扉間の方であるわけだが…。

多少の仕返しが出来たことで腹立ちが納まった扉間は、風呂上がりの髪をタオルで拭きあげながら、イズナに空いた風呂を勧めた。するとイズナは冷めたような眼差しで扉間を見てから、視線を逸らすではないか。
なるほど、一番風呂を盗られてご機嫌ななめということだろう。

(どこまで我儘なんだコイツは…っ)

居間にある古き良き時代を象徴するかのような卓袱台に頬杖をつき、そっぽを向くイズナにいい加減、扉間も愛想が尽きてきた。
そもそもこの3日間といわず、あの日の夜から振り回されっぱなしなのである。

「マダラといいお前といい、どうしてこう『うちは』は扱いにくいやつが多いんだろうな」

挑発するような言葉であるが、意外にもイズナはこれには一切反応を示さず、そっぽを向いたままである。
こうなってくると性格に似あわず短気な面のある扉間は愚痴が多くなってくる。

「だいたいマダラは何を考えているのだ、弟が3日も不在だというのに…!兄者の事だってそうだ、まったく、何を考えているのかっ」

すると何が良かったのか悪かったのか、そっぽを向いていたイズナが扉間の方へ顔を向けたではないか。しかしその顔は、どこか扉間のことを探るような、疑るような雰囲気を滲ませている。

「わかんないの?」
「なにがだ…マダラのことか?」
「兄さんと柱間サンのことだよ」

信じられないものを見るような目で扉間を見た後、イズナは「扉間って意外と鈍いんだね」と不機嫌そうに言い放った。

「鈍い…とは、なんだ。失礼なやつだな」
「どうして柱間サンが結婚したのか、兄さんがそれを黙って許したのか、分からないんだろう?」

イズナの言葉に扉間は一瞬視線を彷徨わせた。その謎はいまも扉間の中で解けない謎として、未消化のまま残り続けていたからだ。

「お前には分かるのか?」
「分からない方がどうかしてる。男と女はね、セックスしてないと気持ちが残るんだよ?」

柱間サンと兄さんも同じだ。だから兄さんは柱間サンとプラトニックなまま、柱間サンのこと手放したんだよ。
兄さんは今でも柱間サンのことが好きなんだ。もちろん、柱間サンもね…。
柱間サンの方は無自覚だろうけど、ある意味、兄さんに嵌められたってこと

「わかった?」

小首を傾げて確認してくるイズナを、扉間は、見たことのない不思議な生き物のように感じた。
イズナが何を言っているのか、扉間には分からなかったのだ。

うんともすんとも答えられず、扉間は黙ったままイズナを見つめた。

そんな扉間を、イズナは目を細め、憐れむような眼差しで見つめ返した。そして風呂上がりの上気した扉間の頬に手を添えると、

「この分じゃ、どうして僕がここに来たのかも、分かってないってことだね」

「よしよし、可哀想に」そういって、扉間の頬を優しく撫でるイズナの様子は、まるで幼子をあやすかのようで、扉間はただイズナを見つめ返すことしかできなかった。

このとき扉間は漸くイズナと自分の見ている世界が違うのだということに気が付いた。
イズナは感情の世界に生きている。
扉間はロジカルな世界に生きている。

異なる二つのモノが交わることは決してない。

「扉間ってなんにも分かってないんだなぁ…」

イズナの言葉に扉間は、「すまない。オレにはお前の見ている世界は見えそうにない」と返した。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

黒い猫を飼っている。
とても毛艶のいい血統書付きの猫だ。

その猫はオレを見て意味ありげにほくそ笑む。

そして今日もまたオレの耳元で囁くのだ。「にゃあ」と…。
オレにはその言葉の意味は分からないが、その猫をとても愛しく、とても好ましいと思っている。

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