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堀田のバカ息子が巻き起こした「吉田松陽捕縛事件」はその夜のうちに藩の上役たちの知るところとなり、藩は大きな選択を迫られることとなった。

吉田松陽が堀田のいう通り、幕政批判と国家転覆を目論んでいるのであれば、松下村塾は天人討伐を掲げる現将軍の意向に背く「天人迎合派」であり国家の敵となる。
しかし事はそう簡単ではなく、折り悪く、次期将軍と目されていた有力候補が不慮の事故に始まり病・暗殺などの憂き目にあい、次期将軍候補にとうとう天人迎合派の名が上がるようになっていたのだ。

もし現将軍の意向に従うのなら、次期将軍の意向に背くことになる。
今の将軍がいつまで将軍でいるのか。
次の将軍が誰に決まるのか。

いままで江戸から遠く離れ、長らく攘夷戦争から縁遠かった長州藩はその姿勢を表立って表明することなくやってきていたが、今回の「吉田松陽」に対する藩の処断は、奇しくもそのまま藩の舵取りと直結することとなったのだ。

子供だった俺は事の顛末を親父から聞かされ、侍とは…武士とは…ほとほと面倒で不自由で面白味のない生き物であることを痛感した。
藩は「吉田松陽」を不問に処したのだ。

すべては堀田の邪推からくる流言であり、息子共々、不要な騒動を起こした責を取らされ謹慎処分と相成った。これにより皮肉にも「松下村塾」は誰からも黙認される私塾となったわけである。触らぬ神に祟りなし…だ。

「それで…俺は今度こそ本当に勘当ってわけだ」

腕を組み上座にすわる、怒り心頭の親父を冷めた目で見つめながら、俺は俺のしたことに対するけじめをつけるつもりでいた。
元々親父はこの事件が起こる前から、講武館を勝手に離れ松下村塾に通い詰める俺を激しく叱責し「勘当」の二文字を叫んでいたのだ。これはもう確実に勘当だろう。

だが俺の予想を裏切り、親父はいった。「貴様の勘当は堀田様の謹慎が明けてからだ」と。「もちろん講武館にも正式に書面を送り、筋を通したうえで貴様を離脱させる」と。

身分的に堀田家の下にある高杉家は、堀田家の顔に泥を塗ることはできない。さりとて藩の意向にも逆らえない。騒動の原因の一端を作った息子に怒り心頭の親父だったが、自らの怒り以上に家の立場を重んじ、俺の勘当は堀田家の謹慎処分明けを待ってなされることとなったのだった。
親父にとっては苦肉の策だろうが、あくまで堀田家の騒動とは関係なく、高杉家内部の問題であることにしたかったのだ。これならば藩にも堀田家にも顔向けができる。

「アンタはそれでいいのかよ…」
「すべては家のためだ。間違っても勝手に家を出るような真似はするな」

つくづく武士というものは…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


あれだけ怒り心頭で怒髪天状態だった親父の怒りも、さすがに半年は持たなかったらしい。
堀田家の謹慎が二月を過ぎる頃には、俺は家では空気のような存在となり、俺が当初覚悟していたようなことは何も起こらなかった。
ただ淡々と過ぎてゆく日々。それに痺れを切らしたのは親父でも家の連中でもなく、ましてや堀田の馬鹿親子ですらなく、俺自身だった。

結局オレは親父からの勘当を待たずして、自らの意思で家を出たのだ…。
最後の最後まで、俺は親父の言葉に従わなかった。

誰も見送りに来ない中、風呂敷包み一つきりという少ない荷物を手に、俺は高杉の家と決別した。
家のためとはいえ勘当を延期し、あまつさえ家紋に泥を塗りまくった俺に寝食を与え、さらには松下村塾への出入りを黙認してくれた親父にだけは、去り際、障子越にではあったが挨拶をして家を出た。

「世話になった…」

親父からの返事は一切なかったが、障子越しに書物を読んでいる気配はあった。もっとも項を捲る気配は微塵もしなかったが…。


親父は一生を「家」に捧げた。
だが俺は、俺の求める「武士道」のために己の人生を捧げる。

あまりにも行く道が違い過ぎたのだろう。今なら素直にそう思えた。

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