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松陽先生と朧が万事屋で同居するお話のつづき
【前回までの松陽様】
朧とともに教習所に通うことになった松陽。しかしそのチートぶりは教習所でも炸裂し、入学手続きから一週間後には教習所を制圧。
通学14日目を待たずして学科試験、実技試験に合格。そのままの勢いで普通自動車免許を取得してしまうのであった…!
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「オレはアンタを働かせるために引き取ったんじゃねぇんだぞ!」
「次は大型免許を取ろうかと思っているんです」
齢600歳を越えた松陽に果たして現代の馬を乗りこなせるのか…。甚だ疑問であったオレの不安をよそに、晴れ晴れとした表情で運転免許試験場から帰ってきた松陽は、顔写真入りの運転免許証をオレにかざしそういった。
運転免許合宿最短コースでも14日かかるというのに、その記録を優に塗り替えた松陽のチート具合に驚くオレ。おまけに免許書に写る松陽は、「免許書の写真ってなんか毎回変に写るよね」というジンクスをも打ち破り、記憶の中にあるあの懐かしい微笑みを浮かべ佇んでいるではないか!
オレの運転免許写真とは大違いッ
これがアルタナの力かよ…。ハンパネぇええええーーーー!!!
おまけに向上心の塊のように、次の免許を取るという。
「え、いや別にいいよ、そこまでしなくて。原付と車の運転さえできればいいんだからよぉ」
軽く困ったオレは、後頭部をガシガシ意味もなく掻きつつ松陽を押し留める。だってそうだろ?大型免許取ってアンタ何するつもりだよ。
「いえ、それでは生徒たちに示しがつきません」
「は?なにいってんのアンタ。生徒なんてどこにもいねーだろ」
次第に不安になってくるオレ。オレの場合、悪いカンほどよく当たるんだよな~。
「実は教習所から講師の依頼が来ているんです。こうなったからには、すべての免許を制覇し、生徒たちの手本となるつもりです」
「え…ちょっと待って、アンタ就職すんの!?」
「どうしても…と頼まれてしまいまして…」
「いやいや、何言ってんだアンタ!」
驚きすぎてもう何を言ったらいいのか分からない。
そういえば、朧のやつが見当たらないのだが…?
「私も働いて、家にお給料を入れたほうが、皆さんのお給料も安定しますし…」
松陽のこの言葉に、事の成り行きを見守っていた新八は「本当ですか松陽先生!!ありがとうございます、これで僕等の未払いの給料がようやく回収できますっ」とかなんとか言って泣き始めやがった。
おい、やめろ…。どんだけオレはお前たちの中でロクデナシの社長なんだ!
そんなに不安なのか!そんなに金が欲しいのか!このアンファンテリブルなお子様どもめッ
「松陽!!いいか、オレはアンタを働かせるために引き取ったんじゃねぇ!くそ…朧のやつは何してんだ、こんな時に!」
こんな時こそアイツが松陽を止めるべきだろう!
「朧なら、いま大型二種を取りに行っています」
「は?」
え?元奈落首領様が、大型免許を取りに??
オレが大慌てで教習所に駆け込み、朧を回収してきたのは言うまでもない。
「お前までその気になってんじゃねーよ!!止めろよ馬鹿野郎ッ」
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「バレンタインとか戦時中にはなかったよね。ま、オレは全然興味ないけど!」
「バレンタインなんて行事がこの世にあることを初めて知りました〜」といって満面の笑みで松陽が大量のチョコとともに帰ってきたのは2月14日のこと。
あ…なんだ。アンタにも知らないことの一つや二つちゃんとあったんだ。安心した。
でもチョット待てよ、おいおい…
「買い物行ってきたんじゃなかったのかよ!?オレたちの飯はどこ消えたんだ!!」
笑顔で朧をともない「お買い物に行ってきますね~。お昼は腕によりをかけますから、楽しみにしていてください」とかなんとかいって、我が家の食費を新八からもらってアンタは出ていったんじゃなかったのか!?
しかも何気に朧も4つほどその手にチョコを持っている…。
心なしか憂鬱そうなあの顔が、嬉しそうに見えるんですケドォオオオ!!?
やめて!!銀さんですら今年はまだ一個も貰ってないのにッ
少し前は神楽のやつが気をまわしてオレや新八にくれていたというのに、「ホワイトデー」というものの存在を知った時から、神楽はオレたちにチョコをくれなくなったのだ…。
オレたちの何がいけなかったんだ!!「ホワイトデー」なんて知るかボケェ!チョコだ、チョコを寄越せよぉおおおーーーーー!
イラッとした気持ちそのままに朧を怒鳴りつけるオレ。
「調子に乗んなよファザコンが!!テメーは松陽からチョコもらってから、そういう顔しろよ!どこの雌ブタとも知れねぇやつからチョコもらってヘラヘラしやがってッ」
「身元ならわかっている。三丁目の豆腐屋の奥方に、隣町の醤油屋の奥方。それにここの大家のお登勢殿だ」
ドン引きだよ…。お前はヅラ属性なのか!??
お前の女の好みはヅラと一緒なのか!??
「おいおい、前の二人は人妻じゃねーか!!妙なトラブル持ち込むんじゃねーよ!あとババアのは捨てろ。こんな近場で乳繰り合われたらたまんねぇ…」
とかクールに言いつつ、
チクショーーーーーババアのやつ、朧にだけチョコ渡しやがって!!
こっちとらぁ、長い付き合いだろーがよぉおおお!!
くれよぉおお、よこせよぉおおーーー、オレにチョコをぉおおおーーー!!…と、血涙を流しながら悶え苦しむオレ。
そんなオレの心境など知る由もない松陽は至極不思議そうな顔をしてオレに訊ねてくるではないか。
おい、先生。アンタはオレのことを何も分かっていない…。
「銀時はチョコもらってないんですか?」
「へ?は?なにいってんの、アレだよ、もらったよ!もらいまくりだよ!!メンドクセーから恵まれない童貞に全部くれてやったんだよっ」
オレの苦しまぎれの言葉など新八と神楽は当然お見通しである。
「成程、そうだったんですか〜」と松陽。
「たまには良いこともするのだな…」と朧。
そして白い目でオレを見てくる四つの瞳。
やめろぉおおおーーーー!!!!
だが、神はオレを見捨てたわけではなったのである。思えば何だかんだで毎年最低一個は誰かから貰えているのがオレという男だ。
「なら、私からのチョコは要りませんね」
帰り道に買ってきたのだという高級そうな箱に入ったチョコを少し残念そうに取り出しながら呟く松陽。しかし次の瞬間には笑顔になり、新八、神楽、朧、そして再び戻って神楽にチョコをそれぞれ渡し始めるではないか!
チョット待て、松陽。なんでそこで神楽に戻ってチョコあげてるんだよ…。
違うだろ?
それオレのだろ!??
「ヤッターーー!!!」
「待ちやがれ、それほオレのチョコだ!ぜってー渡さねぇぞォオオオ!!」
こうして万事屋第一回チョコ争奪戦の火ぶたが切って落とされたのだった…。
「銀ちゃんチョコ貰ったっていってたアル!!」
「ふざけろテメェ!そんなのオレの可愛いオチャメな嘘だって分かってんだろーが!だいたいホワイトデーを知った途端にチョコ渡さなくなりやがって、現金なんだよテメェはッ」
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「まて、落ち着け。たぶんそれ、スタンドだぞ…」
「そういうわけで旦那ぁ、俺はしばらく宇宙のリゾートで羽伸ばしてきまさぁ。土産、買ってくるんで、楽しみにしててくだせぇ~」
といってドS王子が宇宙の高級リゾート地へと旅立ったのは昨日の事。
わざわざ自慢話をしに万事屋に来る辺り、相当楽しみにしていたのだろう。なにせ宇宙規模の南国リゾート星らしいから、お値段もさることながら夢のような楽園パラダイスであることはいうまでもなく、金のないオレたちの心にドス黒い憎しみを植え付け、やつは帰っていった。
どうせオマエ、あれだろ?土産ったって、いいとこ飲みかけのビール瓶とかだろ?お前のやりそうなことは分かってんだよ…。だってオレだってそうするからさぁ!
分かってんだよ、テメーのやり口は!だってオレだってそうするからさぁ!!
最初っから期待なんてしねてーんだよこっちはッ
なのに翌日の昼下がり。なぜか宇宙にいるはずのドS王子が、薄暗い覇気のない顔をして万事屋を訪ねてくるではないか…。
「え、なに…おまえリゾートはどうしたんだよ…」
玄関を開けたオレの横を幽鬼のようにすり抜け、挨拶もなく事務所へと入ってゆくドS王子。事務所では松陽がドS王子を迎え入れる声が聞こえてくるのだが、どうにも変だ。
昨日の今日でなぜヤツが万事屋に顔を出すのか。
なぜ宇宙にいるはずの人間が、地球にいるのか。
なにより、ドS王子がオレの横を通った時に感じた、ひんやりとしたあの空気…!
(え、まさかアレ幽霊なの?もしかして、宇宙船落ちて死んじゃったの!?)
慌てて事の真偽を確かめるため、真選組へ電話をするがなぜか誰も出ない!
こうなったらニュースだ!と来客用ソファに座る総五郎くんと距離をとりつつ回り込み、電源を入れるのだが…。
(つかねぇ!!もしかして霊障か!?総次郎くんの呪いのせいなのかッ)
こんなときに限って突っ込み役の新八は外に出ているし、幸か不幸か神楽のやつは定春の散歩にいっていて総三郎くんと物理的接触による生死の確認もできない。おまけに松陽に至っては笑顔で幽霊と話をしてやがる!
で、朧は…といえば、平気な顔してスタンドに茶ァだしてやがるぅううううーーー!!!
朧の腕を引っ掴み、小声で怒鳴るオレ。
「なにもてなしてんだよ!!馬鹿かテメェは、殺されるぞ!」
「客人に茶を出すのは基本だろう…」
完全に不審者を見る目でオレを見てくる朧。しかしオレはこうなった原因に心当たりがあるのだ!
「おまえ責任取れよ朧!!!」
「なにをそんなに慌てている」
「昨日おまえらがホン怖なんて見てたから、寄ってきちまったんだよ!!本物がっ」
「本物?」
全く話を理解しようとしない朧はとうとうオレの手を振り払う始末だ。お盆を片付けに台所へと引っこもうとしている。
松陽とスタンドを二人きりにするのは不安だが、オレと松陽vsスタンドというのも嫌なので、朧の後を追い台所へと駆け出だすオレ。
そんなオレの様子を朧のやつは眉を顰めてみてくるではないか!
お前はホント、なんも分かってねぇよ!!
「お前も松陽も気付いてねぇみてーだが、あれスタンドだぞ!」
「スタンド?」
「アレだよ!!お前しらねーの!??人が死ぬと、ほら、こう、見えるのに触れなくなる状態になるだろ!!アレだよッ」
「…ゆうれい?」
朧の口から出た言葉に悶絶するオレ。
「馬鹿!!おまえ、馬鹿野郎、コノヤロォオオオオ!!!ヤツに聞こえたらどうするんだッ」
「まぁ、落ち着け。俺は長いこと暗殺業務を請け負ってきたが、未だかつて『幽霊』などというものに遭遇したことはないぞ」
「スタンドだッつってんだろ!!!!ぶっ飛ばすぞテメェ!」
状況は伝わったはずだが、なぜか朧はどこまでも冷静だ。
ホントお前はダメだわ。使えねぇわ。そんなだから朧なんだよ!名前からして霞んじゃってんだよ、スタンドみたいに!!
「みたところ足は生えているようだが?」
「ホント馬鹿!最近の幽霊はなぁ足標準装備なんだよ!松陽のバカにも教えてやってくれ!アイツ、オレの言う事は全然信じてねーからッ」
「そりゃあ貴様の言う事ではなぁ…」
「なんだよその目。ちゃんと状況説明しただろーが!」
「…」
その昔、純粋無垢だった俺は「弟弟子」というものに壮大な夢を抱いていた。
弟弟子ができたら兄弟子としてシッカリ面倒をみてやろう!とか、兄弟子として弟弟子を可愛がってやろう!とか、麗しい事を考えていた。
しかし現実はそんなに甘くない。
実際に出来た弟弟子たちは「電波」に「厨二」に「天パ」である。せいぜいが弟弟子の尻拭いというのが兄弟子である俺の仕事だ。
一つ溜息をつき、事務所で「スタンド(幽霊と言うと天パが怒るので仕方なく合わせてやる)」と話し込んでいる先生に「スタンド」のことを伝えに行ってやることにしたのだが、部屋の扉を開ける前に聞こえてきた会話に、また一つ溜息をつくことになった。
「いやぁ、参りやしたよ。慰安旅行先が巨大台風にみまわれましてね…。一切の船の離発着ができないってんで、全部パァでさ…。で、土産の約束してた旦那のところに顔だして謝っとこうかな…なんて思ったのに、旦那のやつ、俺を避けまくりじゃねーですかぃ」
「なるほど、それは残念でしたね。せっかくの慰安旅行だというのに、みなさんも落ち込んでいるのでは?」
「まぁ、近藤さんはいつものストーカー行為に戻ってますんで、むしろ慰安旅行が潰れてよろこんでんじゃあないですかね…。へこんでるのは俺と山崎くらいなモンでさぁ」
はは…スタンドだと?呆れるほどに馬鹿だな。
真実を知り扉の前で立ち尽くす俺に、台所から不安げな視線が突き刺さる。
「早くいけよ!早く知らせて来いって!!」
「…」
世間では『馬鹿な子ほど可愛い』というが、その意味がようやく理解できた。可愛い弟弟子がここまでビビっているのだ。ならば兄弟子として乗ってやるのが優しさというものだろう。
「銀時…どうやら手遅れのようだ。先生はもう…」
「そんな…松陽がッ」
「逃げろ。ここは俺が食い止める…貴様だけでも逃げろ」
「朧…テメェってやつは!!よし、あと頼んだぞッ」
「!??まて、銀時ッ ぎんと…!」
その後たっぷり一週間、銀時が真実を知るまで万事屋に戻ってくることはなかったのだった。
(今日の貴様の薄情さ…俺は一生涯忘れんからな!!)
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