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イズナちゃんと扉間のお話。




うちはと千手の生活圏はほかの一族が想像しているよりも、実はもっと近い。
どれくらい近いのかというと、普通に色街で出くわす程度には近かったりする。

嘘…。
今のは嘘。

本当は色街で出くわす程度じゃなくて、馴染の女が一緒だったりする場合もある。一昔前なんて布団の中で情報が漏れるなんて、お互い珍しくもなかった。
当然、女を巡って私情で争うこともあう。
もちろんこれも一昔前の話。

今は互いに統領も変わり、一族を取り巻く環境も変わり、それに応じてこういった問題にも対策が講じられるようになった。

そもそも戦場ではないのだから、お互い素知らぬ顔をして通り過ぎるのが礼儀だろう。
あくまで忍は金で雇われ、戦いを請け負い、殺しをする。その暗黙の了解ともいえる「掟」のもとに行われる「殺し」だからこそ合法なのであって、私生活で行われる殺しなど誰も歓迎しやしない。
それじゃ単なる気狂いだ。

とはいえ、有史以来続くうちはと千手の戦いは、もはや綺麗事だけでは済まされない域にまで達している。
いわく、「道を歩けば親の仇と遭遇する」「色街に行けば兄弟の仇と遭遇する」「街に繰り出せば子の仇に遭遇する」といった具合なのだ。

いやしかし、実に語呂がいい!

なーんていうと誰かに怒られそうだが、別に馬鹿にしているわけではなく、かといって褒めているわけでもない。なぜなら、かくいう僕・うちはイズナも兄弟を三人、千手にやられているのである。
だから当然、色街で千手に出くわせば、素知らぬ顔をして通り過ぎる…と見せかけて馴染の店や贔屓の女などを確認し、情報収集の足掛かりにしたりするのだ。

そう…形は違えど、今も昔も変わらず色街は立派な情報収集源というわけだ!

でもお互いそんなことをしていると、迂闊に馴染の店も作れなくなってくる。
かといって昂ぶる身体の熱を持て余した若い部下たちに「色街へ行くな!」とも言えない。

「まったく…部下の腹の下三寸の心配までしなきゃならないなんて、こんな話きいてないよ」

いつぞや、僕がぼやいた言葉に兄であるマダラも溜息交じりに答えたものだ…。

「仕方ないだろう。女を抱くなとはいえん…」

もっとも、そういう兄さんは千手の統領に夢中で自身は色街になど滅多に足を運ばないのだ。だから当然そちら方面の管理は僕が引き受けることになる。
そもそもなぜ兄さんの足が色街から遠ざかっているのかというと、柱間に出くわすのが嫌だからなのだ。
いつぞや、珍しく色街に繰り出したと思ったら渋い顔をして帰ってきたのがその証拠だ。あの日以来、ぱったり色街へ出向かなくなった。
古くからの馴染の店も色街にはあるというのに、その管理すら今では僕の仕事だ。

「兄さんは少し潔癖が過ぎるよ」と窘めたこともあったが、兄が困ったように首を傾げ微笑む姿に何も言えなくなり、今日もまたこうして任務のため部下を伴い、僕は色街へと赴くのだった。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

場所は色街。
時刻は酉六つ。
冬が近づいてきたこの頃は色街の行燈の火の入りも早い。気の早い店などは夕暮れ時には軒先の行燈の火を入れ、客引きを配置しているほどだ。
まぁ寒い時期というのは誰しも人恋しくなるものだから、商売人としては適切な判断ともいえる。もっとも、今回に限って言えば、何一つ有難くない気づかいではあるが…。

イズナは内心で舌打ちしながら、随伴させた部下への苛立ちを必死に抑えていた。

いつの世も戦場には男色がはびこる。それはうちはでも例外ではなく、特にイズナは年上の男に想いを寄せられることがままあった。

放っておけば女につまずき、身近に置けば族長補佐に懸想する。頭が痛いことこの上ない。

とはいえ、情報を布団の中ですっぱ抜かれては困る…と、イズナは毎度そんな部下たちを適当にあしらい、面倒事にならない程度に付き合ってやっていたのだが、今回はそれが仇になった。
色街での調査中、なにを勘違いしたか、はたまた焦らしすぎたのか、部下が自分に迫ってきたのである。

まさに、「おいおい、何を考えている!」である。

火の入り始めた店の中に陰間でも見つけたのか。あるいは自分の後ろ姿に不埒な妄想が抑えられなくなったのか…。
部下の何度目かになる「休みませんか」の言葉に、とうとう我慢の限界を迎えたイズナは、素気無く犬を追い払う要領で手を振り部下を追い払ったのだった。

「悪いけど、今そういう状況じゃないから!あっちいって!」

そもそも、今日は千手の中でも身持ちの固い幹部の一人に馴染の女ができたらしい…という情報の真偽を確認するために色街を訪れたのだ。なのになぜ目的の店に近づいたところで休みなど取らねばならないのか!

「まったく、ふざけ過ぎだっ」苛立ち紛れに吐き捨てれば、なぜか背後から「お互い部下には苦労するな…」と聞きなれた声が…。

「!??」
「奇遇だな、こんなところで逢うとは。お前もあの店に用があるのか?」

身を固くして振り返れば、そこには戦場で嫌というほど見慣れた男が一人、気楽な着流し姿で立っていた。しかも男が顎で指示した先、それはイズナが今まさに監視しようとしていた店だった。
慌てて視線を男から外し、店の入り口を確認すれば、目的の男がちょうど店に入っていくではないか!

情報は本当だったのだ…。
あとは男の馴染の幼女を確認し、こちらに引き込めれば上出来だ。

しかし今回に限って言えば、それはどうにも難しい。

「千手は部下の管理が行き届いてるみたいだね。わざわざ族長補佐殿が見張り役に馳せ参じるとは」

イズナの嫌味に男は腕を組み、「そうでもない」といつになく軽い調子で返してきた。この男も馬鹿ではない。イズナがここにいる意味を理解しているはずだ。にも拘らず焦った様子もなくイズナの隣で立ち話に興じているではないか。

(どういうことだ…)

他に見張り役がいるとも思えず、イズナは自分より立派な上背の男を睨み上げながら、状況把握に努めた。

色街を張らせていた部下から一報が入ったのは昨日のことだ。
「千手の幹部の男が、店に入ったばかりの水揚げまえの幼女を連日座敷に呼んでいる」と。
その男は以前から真面目を絵にかいたような男で、その男からだけは今まで一度も情報を取れた試しがなかったのだが、その理由が「幼女趣味」であったとは…!
イズナは男の高尚な趣味を鼻で笑いながら、昨日の今日ですぐさま動いたというのに、よりによってこの男が見張りについているとは予想もしていなかった。

とはいえ、ここで引き返すのも癪に障る。

どうしたものか…と苦々しく考えていると、男は腕を組みながら、極々軽い調子でイズナに話しかけてくる。

「悪いがアレは、あの男の娘だぞ」
「え!?」
「外で作った子だそうだ。今日は娘の身請けにきた。身請けのための金が足りないと兄者を拝み倒して金を用立てていたので、どうなったのか気になってな…。こっそりついてきたのだ」

そしたらお前がいたわけだ。と締めくくり、さらに探りを入れてくる。

「うちはは耳が早いな。ヤツが娘を見つけたのは5日程前のことだというのに、もう店の周りを張り込んでいるとは。色街に余程優秀な耳を持っているらしい。羨ましい限りだ」

だが残念ながら、部下の管理は行き届いていないらしいな。
最後に付け加えられた言葉で、男がいつからこちらを監視していたのかが知れる。

幼女趣味を鼻で笑いながら上機嫌で色街を歩いていたことろも、部下に迫られたところも、全部見られていたのだろう。散々だ。

捨て台詞を吐くことすら恥ずかしく、イズナは無言で踵を返し店とは逆の方向へと歩き出した。
恥ずかしくて仕方がなかったのだ。
こんな屈辱は初めてだ!

「なんだ…もう帰るのか?酒くらい飲んでいったらどうだ」
「遠慮しとくよ!さよならっ」

背後からかかった声にも振り返ることなく怒鳴り返す。

互いの距離が近すぎると、たまにはこんな事もある。
二重スパイを雇わなくてよかったじゃないか、と自分を慰めながらイズナは扉間の行動にただひたすら腹を立てた。

黙っていれば千手に有利に働いたかもしれないものを、なぜネタばらしなどしてみせたのか。
情けをかけられたのか、それともただ間抜けな自分を嘲笑いたかったのか。
少なくとも、自分なら絶対にネタばらしなどしない。逆に逆手にとって娘を間者として使っただろう。

柱間といい扉間といい、千手のやることはよく解からない。よく解からないから、尚更、腹が立つ。

「扉間の馬鹿野郎ッ 次に会ったら絶対に殺してやる!」

赤くなった頬を、夜風で冷えた両手で押さえながら、イズナは家へと駆けだすのだった。

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