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「悪心」
大切にしていたものを衝動的に壊してしまった日のこと







貴方が無事であればそれでいい。
貴方が生きていてくれればそれでいい。

そう思っていたのに。

あの『松下村塾』で子供たちといる貴方を見て、私の中の何かが限界に達した。

ただ悲しく、ただ嫉ましく、胸が張り裂けそうだった。

何故そこにいるのが自分ではないのか。
あったかもしれない、もう一つの未来を前にして、失ったものへの執着が噴出した。

(本当は貴方とずっと一緒にいたかった!)

貴方の側で、貴方の教えを受けたかった。
誰に憚ることもなく、貴方を「先生」と呼びたかった。

それが永遠に叶えられない夢なのだと私は知っていたのに、目の前に突き付けられた現実があまりにも残酷で、悪心が私の胸に去来した。

ずっと守り続けてきたものを、私は自分の手でぶち壊したのだ。



「ご報告があります。長らく行方をくらましていた逆賊の徒…虚の居所が、このたび判明いたしました」

その瞬間、迷いなどなかった。あったのはたった一つの思いだけ。


返してもらうぞ、松陽の弟子たちよ。
私の「先生」を…っ

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