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「仔猫」
「家を建てたら猫を飼いましょう!」という松陽のお話。








「銀時は仔猫、触らなくて良いんですか?」
「別にいい、キョーミねぇよ。だって直ぐ死んじまうんだろ、あれ…」

道端で銀時と同じくらいの年頃の子供たちが集まって何かを取り囲んでいるのに気付いた私は「おや?」と思った。この年頃の子供たちが男女の分け隔てなく瞳を輝かせるものとは一体何なのか…。
しかし疑問は子供たちの輪の中心から聞こえてきた可愛らしい「にゃー」という声で解決した。

小さく愛らしく庇護欲を誘う、帰る家を持たない小さな生き物に子供たちは夢中で手を伸ばし「かわいい」「可愛い」とすっかり夢中だ。

だがその子供たちの中のどれだけの者が、その命の儚さを知っているのだろう。
きっと明日になれば小さな仔猫は弱って死んでしまうのだ。
そしてそのやせ細りウジが涌いた、かつては生き物だったモノを見て、あるものは悲しみ胸を痛め、あるものは興味を失い、またあるものは冷たく忌諱する。

そうやって人は死に触れながら死を理解してゆく。

だが銀時は私が知るどれとも違う反応をしてみせた。銀時はもう「死」を知っているのだ。

「あなたとはやっぱり気が合いそうです」
「なんだよそれ」

私の言葉に何を思ったのか軽く口先をとがらせ不機嫌になった銀時をみて、態度とは裏腹に「死」を遠ざけることで傷つくことを避けているのだと察した私は、いつしかあの子を思い出していた。

(そういえばあの子は、カラスの雛が死んでしまったと言って泣いていたっけ…)

境遇に似あわぬ、心の優しい真っ直ぐな子だった。今にして思えば、不思議な子だ。
失うことも、傷つくことも、裏切られることも、何も知らなかったのだろうか?
いや、あの子は私と出会った時、あの年で既に苦難の道を歩いていた。奈落に狙われ襲われるような屋敷で、幼い子供が一人、奉公などするはずもない。きっと奴隷のようにどこからか連れてこられていたのだろう。

なのに何もかも失ったその後でさえ、あの子は信じることを止めなかったのだ…。

いつしか子供たちの興味は仔猫から離れたのか、あるいは昼食の時間になり戻っていったのか。仔猫は草むらに一匹ぽつり…と座り込み「にゃー」と震える声で鳴いていた。

「よし、ものは試しです!触ってみましょう。ほら、行きますよ銀時っ」
「は?何言ってんのアンタ。ちょ…ひっぱるなっ」

自分と似た感覚をもつ子供を見て、自分とは違う生き方をした子供を思い出した。その姿に、少しだけ前に進んでみようと思った。
自分より先に亡くなってしまうとしても、失う事ばかり考えていてはいけないのだ。
共にいられる時間にこそ、私や銀時は目を向けるべきなのだ。

たとえ傷ついたとしても…。




「あなたと旅をしていて良かったな〜って、最近よく思うんです」
「なんだよそれ…」

初めて触った仔猫は小さく温かく、風邪で寝込んだときの幼い頃の銀時を思い出させた。
あれから何度となく銀時も子供らしく風邪をひき、怪我をし、我儘をいうようになった。

「この子、連れてっちゃいましょうか」

私の掌で居心地よさそうにしているのが可愛くて、つい欲が出てしまう。

「おいおい…家もねぇのによく言うよアンタ」
「やっぱり猫を連れて旅するのは無理でしょうか」

「当たり前だろ」と突っ込む銀時も、だが本当は連れていってやりたいのだ。だってこの子には帰る家がない。そして家族もいない。
でも連れてはいけない。
手にした仔猫をそっと草むらへ返し、私と銀時はしばし仔猫の傍で無言でしゃがみこんでいた。

明日になったらこの小さな生き物は力尽きているのだろう。

子供たちのように無邪気に仔猫から離れ、現実に戻ることは、私たちには少し辛かった。
再び西へと歩き出した時、私はあることを心に決めていた。もっとも、それは同居人となる銀時に即座に却下されてしまうのだけれど…。

「決めました!家を建てたら、猫を飼いましょう!」
「ヤだよ。どうせオレが面倒見るんだろ…」

「そんなことないですよ?私もちゃんと面倒を見ます」
「アンタさぁ…私塾開くんだろ。忙しくなるじゃん。少しは考えろよ」

「ダメですか?」
「ダメだッつってんだろ。ホントしつけーなぁ」

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