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「我が家」
「銀時、家欲しくありませんか?」って松陽が銀時にきくお話。







「銀時、家…欲しくありませんか?」

松陽が銀時にそう訊ねたのは太陽が山の稜線に隠れ、東の空に星々が顔をのぞかせ始めた時のことだった。



移動しているのか、それとも立ち止まっている方が多いのか。松陽と銀時は移動に費やした時間と同じだけ、西へ向かいながら立ち止まり、寄り道をし、時に方向をたがえながら旅を続けてきた。遺跡を見て回ったこともあったし、神社仏閣へ参拝して回ったこともあった。海を渡り小島を訪れたこともあったし、とにかくその時々で松陽は銀時を伴いいろいろな場所を見て回った。
そんな当てのない旅のような状態でも、松陽は進路だけは西にとっていた。
そのことについて銀時は特に疑問を持ったことがなかった。なにせ銀時は世界を知らなかった。自分がいた場所がどこだったのかさえ分からない程に、その世界は狭く、そして銀時自身もまた幼かった。けれど松陽がいつも日の沈む方向へ進路を取っていることにだけは気付いていた。いつも自分たちの背後から太陽が昇り、自分たちの影を視界に収めながら歩き、そして夕日で真っ赤に染まった空を眺めながら宿を探す。そんな生活をずっと当たり前のように続けていたからだ。

一番長い時でさえ半年。
それ以上、松陽は同じ場所に留まることはなかった。
だから銀時は5歳からの3年間、旅を続けながらそれがこれからも続くのだと思っていた。「家」というものは仮の住みかだと認識していたのである。

行く先々で出会った子供たちには家があった。自分たちとは違うのだという事だけは認識していたが、銀時の帰る場所は松陽の隣と決まっていた。

7歳になる頃、松陽のおかげで文字の読み書きに不自由しなくなっていた銀時は町の茶屋でジャンプという少年雑誌に出会った。
そこには絵が描かれていた。文字も書かれていた。自分の知らない世界が描かれていた。
夢中になった。
そしてこの世のリズムを知った。

一日は24時間で、一日が7個集まって一週間になる。一週間ごとにジャンプは発売される。
そして一週間が4つ集まって一カ月になり、ジャンプが4冊読める。
一カ月は12個で一年になる。

漫画の内容も自分たちと同じように季節を変化させ、世界にあふれるイベント事を銀時に教えてくれた。

それと「祝日」の存在も教えてくれた。
たまに茶屋のどこを探してもジャンプが見当たらない日があるのだ。最初の頃、銀時はそれがどういう事なのか分からず、松陽の「あぁ、先週は合併号でしたからね」という言葉に首を傾げるばかりだった。
しかし今ではその謎も解けている。
銀時は旅の中で生活のリズムが出来たのだ。

すべてのリズムはジャンプを中心にできていた。実に子供らしい。

そう…。銀時は旅の中で幼児から少年へと成長し、今年で8歳になっていた。
正確な年齢は分からないが、松陽は便宜上、銀時の年齢を出会ったころを5歳とし、銀時へもそのように伝えていた。だから銀時も旅先で人に年齢を訊ねられたらそのように答えている。

そんな生活の中、松陽が突然口にした言葉は、銀時を不思議な気持ちにさせた。
実はその日は月曜で、松陽と共にジャンプが置いてありそうな茶屋へ入り、休息がてら団子を食べながらジャンプを読む日だった。すべての茶屋にジャンプが置かれているわけではないことを経験から学んでいた銀時の茶屋選びは慎重だ。必ず子供連れの客が入っている店を探して入っていた。
今日も子供連れの客が入っている店を選び、銀時と同じようなジャンプ信奉者と会話を交わし、店の外で子供らしく遊び、そして気が付けば日が暮れていた。
一緒に遊んでいた子供は茶屋の近所に住む子供で、親と共に夕暮れ時には家へと帰っていた。

「じゃあ、またなー!銀時」
「おぉー。機会があったら、またな」

一緒に遊んでいた子供の方はどうだか知らないが、銀時はちゃんと分かっている。「また」は自分たちにはないのだと。西へと旅を続ける銀時が、再びこの地を訪れる可能性は極めて低い。そうやって何人もの同年代の子供と、出会いと別れを繰り返して育ってきた。
だが松陽は言ったのだ。

『銀時、家…欲しくありませんか?』と。

口達者な銀時でも、咄嗟に返す言葉が見つからなかった。
そんな銀時をともない松陽は、その日逗留する町の高台へといき、星々が瞬く中、夕闇に浮かび上がる家々の明かりを眩しそうに見つめながら、

「あの家の明かり一つ一つに、それぞれの生活があるんですね。今日、銀時が遊んでいたあの子の家は、あの辺りでしょうかねぇ。家の近くに道祖神が並んでいるのだと、彼のお父さんがいっていましたから」

「大きな木のある家がいい!」

家が欲しくないか…という松陽の問いかけに初めて銀時が返した言葉だった。
突然上がった声に、しかし松陽は驚くこともなく、笑いながら応えた。

「その木陰で昼寝でもする気でしょう」
「あと、出来たら柿の木がいい」

「秋になったら柿が食べられるからですか?」
「まぁな」
「しっかりしてますねぇ」

秋になると銀時は道沿いの柿の木を見つけては、甘く熟した実を失敬していた。松陽はそんな銀時の姿を思い出し笑っていたのが、どうやら家の構想はできているらしい。

「でも柿木は止めて、松にしませんか?」
「松?」

「えぇ…大きな庭のある、立派な松の木の生えた家です。平屋建てて、大屋根のあるどっしりとした日本家屋がいい」

何かを思い出すように遠い目をしたまま松陽は続ける。そこで私塾を開こうと思っている…と。

「あんた先生になるのか?」

銀時の言葉に松陽はニッコリ笑いながら「いまなら、できそうなきがするんです」といった。

「…いいんじゃね?あんた頭いいし、強ぇし。このままニート続けるのも年齢的にキツイしな」
「現実的な言葉で締めくくるの止めません?」

定職を持たず、家を持たず、孤児を連れ気ままに旅する松陽のことを疑問に思わなかった銀時ではない。なにか事情があるのだろうと子供心に察していたが、松陽の言葉でようやく納得がいった。

「で、名前決まってんの?」
「えぇ、決めてあります。『松下村塾』です」

「『松陽』だけに?」
「まぁ、そんなところです。すべては『松』から始まりましたから。この私も含めて…」





旅の終点が見えてきた。
西へ行くにも限度がある。
これから先は、よそ者の自分たちを受け入れてくれる場所を探しながらの旅になる。

三年という歳月で自分がどれだけ変われたのか。いままで考えたこともなかったが、今がその時のような気がした。

旅の終点に辿り着いたとき、今度こそ自分は「自分」に決着を付けられる…そんな気がした。

(いまなら、君との約束を果たせそうです…朧)


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