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「遠いあの日」
松陽がショタ銀を抱き締めて頬ずりするもんだから、ショタ銀に「あんまり他のガキ相手にベタベタすんなよ」といわれるお話。






子供の温もりを知って以来、私はなにかと銀時にスキンシップを図るようになった。
小さな子供の身体は温かく、私は銀時と触れ合っている瞬間、心の底から安堵し、時に長く小さく感嘆することさえあった。

(人という生き物は、温もりだけでこうも落ち着くことができるのか…)

長い人生の中で私はようやく「人」としてまともな答えに辿り着けたような気がしていた。
そして今日も、ほぼ日課となりつつある銀時との触れ合いを楽しんでいた時のことだ…。

「松陽…。あんまり他のガキ相手には、ベタベタすんなよ?」
「なぜです?」

まだ幼いながらも銀時は利発な子供だった。拾った当初こそ、戦野以外の場所を知らず、親を知らず、世間を知らず、そして言葉さえ一部怪しいものがあったが、共に旅をするうちに乾いた大地が水を吸い込むように多くのことを身に付けていった。
今では一見するとどこにでもいるような少し生意気な幼児にしか見えないだろう。誰もいまの銀時を見て「鬼」などとは思うまい。

そんな銀時がなにやら幼児らしからぬこまっしゃくれた事をいうのだから、これは耳を傾けておいた方がいいのだろう。
何だかんだいっても、私だとて奈落を出奔するまでは「籠の中の鳥」というやつで、まともに外の世界で生活していた時期などたかが知れている。なにより、奈落に入る前などは長きに渡り牢獄に閉じ込められていたのだ…。

「なぜ、私は君を抱きしめてはいけないのですか?こんなに温かくて柔らかくて気持ちがいいのに」

銀時の言葉を受け、銀時を抱きしめ頬ずりするのを中断して訊ねてみる。
先日、旅の途中で熱を出し寝込んで以来、銀時も人恋しいのか私の抱擁を甘んじで受けていたというのに…。一体何があったのか。
私の問いかけに銀時は、小さなモミジの掌で私を押しのけつつ答えた。

「ガキ相手に変なことしてると、気狂いの変質者だって思われるぞっ」
「気狂いの…変質者?」

その言葉に、私は遠い昔の記憶が薄暗闇の中からスッ…と浮上してくるような感覚を覚え、固まった。

それは私ではない「私」が体験した幾つかの記憶の一つである。

私はかつて「気狂いの変質者」に殺されたことがあったのだ。
銀時と同じか…それよりも幼い頃のことだ。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


その男がどこの誰であったのかさえ、幼い私には分からなかったが、恐怖の瞬間だけははっきりと記憶に焼き付けられている。
激しく抵抗する私に腹を立て、男は私の首に手を掛けたのだ。
私の意識はプツリ…と途切れ、次に目覚めたとき、私は薄汚れた半裸の姿で草叢の中に倒れていた。

きっと私は死んでしまったのだろう。
だから見つからない場所に棄てられたのだ。

その当時の私はまだ幼く、死んでいた間に自分の身に何が起きていたのか見当もつかなかった。
なぜ足の間が痛いのか、股から血が出ていた形跡があるのか、お腹の中がごろごろするのか、そんな理由は考えもしなかった。
痛む身体を抱えて起き上がった時、ただ殺されたのだと思った。
下肢を汚す粘ついた白濁の意味も、自分の体内から流れ落ちた生温かい薄桃色の濁についても「汚れたから綺麗にしなければ…」としか思っていなかった。

(まさか幼な子に欲望を向ける人間がいるなんて、夢にも思わなかった…)

私が自分の身に何が起きたのかを理解したのは、長い時を牢で過ごしたその後のことだった。
時の朝廷の命に従い赴いた遠方の戦場で、近くの村から連れ攫われてきた小さな子供が、男たちによってたかって襲われているのを目撃したのだ。

その直後のことはよく覚えていない。
ただ気が付いたら私は幼な子の上で腰を振る男を後ろから無言で刺し殺していた。そしてその行為に加担していた周りの男たちも全員殺した。
そして最後に、地べたに横たわり声もなく泣いている哀れな子供のことも殺した。

いま思い出すのは、男たちの下卑た笑い声と粘着質な水音。
そして殺す直前に見た、両目を見開き制止の声を上げる小さな子供の顔。それだけだ。

そのどれもが質感を持って思い出される。
まるでつい今しがたのことのように。

(きっとあの子供にとって、誰よりも何よりも恐ろしかったのは、この私だろう…)

なぜあんなことをしたのか。
なぜ子供まで殺す必要があったのか。

(誰よりも殺したいのは私自身だというのにっ)

あの子供に、あの瞬間、私はかつての自分自身を投影していたのだろう。だから許せなかったのだ。目の前で息をしていること、それ自体が…。

「松陽、痛てぇよ!もうちょっと力考えろ!」

突然腕の中から上がった叫び声に、沈んでいた思考が一気に引き戻される。

「…っ!ごめんなさい、痛かったですね」

取り繕うように笑いながら、腕の中の幼子の身体を撫でてやる。

「怪我はしていませんよね?」
「腕がいてぇ…。松陽が急に思いっきり締め上げるから!」
「ごめんなさい…」

怒ったような拗ねたような声音で文句を言う銀時は、しかし私を恐れる様子は微塵もなく、「あぁ、この子に信頼されているのだな」と私のささくれだった心を安堵させた。

それでも未だ、私の中の声は止まず、私の目指す道というものが果てしなく遠いものであることを伝えてくる。

六百有余年という人生は、私にとって酷く長すぎたのだ。

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