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「墓参り」
墓の前で泣き崩れる子供に何気なく声をかけた、奈落首領時代の虚さんのお話。


※オムニバス形式で更新しているため時間軸が前後しています ※こちらをご覧の方はサイトの銀魂ページで詳細をご確認ください



仕事帰りの雨の中、意図せず墓場の近くを歩いていたら人のすすり泣く声が聞こえてきた。

昔と違ってずいぶん立派な墓を立てるようになったものだ…と感心していたら、人の泣き声である。
しとしと降る雨の中、誰が泣いているのかと興味を惹かれ見に行ってみれば、真新しい墓の前で子供が一人、傘もささず地べたに座り込んで泣いていた。

親でも死んだのだろう。
よくある話だ。

だがある一つの興味が私の胸に湧き起こった。
一体どんな人物が亡くなったのか…。

今まで何度となく「死」を経験してきたけれど、私には私の死を悼んでくれる人間など一人もいなかった。ましてや「墓」など夢のまた夢。つまりこの場所は私にとって最も縁遠い場所なのである。
そんな縁遠い場所に私を呼び込んだ二人の人間に興味がわいた。

泣き崩れる子供の隣に立ち、差していた傘を子供に半分差しかける。

「お母上でも亡くなられたのですか?」

私の言葉に子供は泣きながら「違う。父ちゃんだ」と簡潔に返してきた。

「悲しいですか?」

墓石には確認できる限り一人分の名前しか記されていない。子供の様子から察するに、母親は元々いないのだろう。ならば父と息子の二人三脚で生きてきたことになる。
私の予想を肯定するかのように子供は鼻水と涙を雨に流しながら、墓の周りに敷かれている砂利を両手で握りしめ、「オイラも死にてぇ…。父ちゃんと同じところにいきてぇよっ」といった。
その答えを聞いて、私は改めて墓石へと目を向ける。

子供の身なりから察するに家庭は裕福ではないのだろう。着物は洗濯され綺麗な状態ではあるが、ところどころに小さなつぎはぎがある。一見して健康状態に問題がないように見えるが、着物から覗く足首などには擦り傷があり、子供ながらに何らかの仕事に従事しているのだろうことがうかがえた。
小綺麗な虚無僧姿の自分とはえらい違いだ。

そこまで考えて私は口を開いた。
今までの人生において、私は人を慰めたことなどない。だからこれは慰めなどではなく、私の正直な感想だ。

「でも、良かったじゃないですか。こんなに立派なお墓が建ててもらえて。世の中には墓の一つ、墓標の一つも建てられることなく野ざらしにされたまま朽ち果てる人もいる」

それに、こうして君が毎日墓にきているから、墓の手入れも行き届いているじゃないですか。あそこの隅にあるお墓なんて雑草だらけで朽ち果ててますよ?
お墓っていうのは第二の「家」ですからね。
こうして参ってくれる人がいて、綺麗にしてもらえるというのは嬉しいことです。

もっと言うのなら、次にあなたがここに来たとき友達の一人でも連れてきて、その次に来た時は恋人でも紹介してくれて、その次は結婚の報告でもしてくれて、その後は孫が出来たことを報告してくれて…。

「そうやって嬉しい報告をしてくれて、最後に皺くちゃになった貴方が笑顔でお父様と同じお墓に入る。そういう嬉しい報告の方が、喜ばれると思うんですけどねぇ…違います?」

私の言葉に子供はより一層激しく泣き出してしまったが、私にはこれ以上どうすることもできない。
泣き崩れる子供に貸してやる傘の隙間はあっても、背中を優しく撫でてやる手もなければ、黙って貸してやる胸もない。

だがその後も、妙にその墓と子供のことが気にかかり、私は数年に一度、思い出したように烏に命じては墓の様子を見に行かせていた。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆


「なぁ、松陽~。その饅頭、終わったら食ってもいい?」
「終わったら、ですよ?ちゃんと掃除もして、お線香も焚いて、挨拶が終わったら、ですよ?」

先日、茶屋で団子を食べさせて以来、銀時は甘いものに目がないようになってしまった。歩く先々で茶屋を見つけては団子を強請るの繰り返しに、さすがの私も飽き飽きしてきた。

これからもっと西へ移動する。
そうなればもう二度とこの場所に来ることもないだろう。そう思ったとき、一度引き返してでも挨拶をしておきたいと思った。
しかし墓参りのお供え物に団子を選んだのは失策だったかもしれない。道すがら銀時のうるさい事うるさいこと…。

「ちゃんとお行儀よくしててくださいよ」
「わかってるよ!それより団子!早く参って、早く団子ッ」
「落ち着いてください。まるで中毒患者のようですねぇ…」

銀時だとて墓場など珍しいはずだ。団子を買うまでは確かに神妙な面持ちで墓参りに臨む姿勢を見せていたというのに、団子を買った瞬間から態度が豹変してしまった。

(先日、団子を食べさせたのは間違いでしたね…)

人生初の甘味に、声も出せない程の感動に打ち震えていた姿を思い出し、「いやいや酷なことを考えてしまった」と眉間に手を当て、反省すれば誰よりも墓参りに興味のなさそうだった銀時が「あった!松陽、あった!これだろっ」と一つの墓を指さしてきた。
顔を上げ見てみれば、記憶の中のそれと一致する墓が一基。

「そうそう、これですよこれ!来るのは十数年ぶりくらいなんで、ちょっと自信がなかったんですが、相変わらず綺麗に手入れされてますね」

あの雨の日から十数年の時が経ち、私自身が直接足を運ぶのはこれが初めてで多少の不安を感じていたのだが、やはり胸に残る場所というものは興味がなくても覚えているものなのだと痛感した。

私はこうして西へ西へと逃避行を続けながら、わずかばかり記憶に残る場所を尋ねることもしていたのだ。

当時の私は、まだ完全な「私」ではなく、混沌とした内面を抱えながら生きていた。それがようやく一つに落ち着いてできたのが「私」であり、「私」にはここに至るまでのあらゆる私の感情や記憶が存在していた。とはいえ、それらの感情や記憶は他の私のものであり、統合したからといって自分のものになるわけでもない。

そもそも人の記憶とは酷く曖昧なもので、さすがに600年以上多重人格で生きているとその傾向が強くなるようだ。
現に、昔の私と今の私では、この墓に対する思いも違っていた。




戦野で生きてきた銀時にとって「墓」というものは私が思っていたよりもずっと重い存在として認識されていたようだ。
口達者でともすれば可愛げのないことを言う銀時が、文句ひとつ言わず墓の掃除を手伝い、花を活け、お供え物をし、線香を上げたときには驚きで私の方が声を上げてしまった。

「銀時…あなた、お墓参り、すきなんですか?」
「馬鹿いうな。参る墓すらオレにはねぇよ」
「ですよね…すいません」

銀時に倣い手を合わせてみるが、実際のところ、私は墓の主のことなど知らず、またこの墓を守っている子供にも一度しかあったことがない。そういえば、最初の時、私は墓に手も合わせず立ち去ったのだった…。

ひとまず、その時の非礼だけは詫びておこう…と心の中で墓の主に声をかけた時、背後から私に声がかかってしまった。

「もしかして、あの時の方ですか…!?」
「え…?」




13年ぶりの再会は、奇しくもあの日あの時と同じ日時であったらしい。
旅装束の私に声をかけてきたのは、あの時の子供で、今年でちょうど二十歳になり、この冬に婚礼を挙げるとのことだった。

私の変わらぬ姿に多少驚いてはいたものの、銀時の姿を認めると「お子さんがいらっしゃるんですね」と笑顔で銀時の頭を撫でた。
その時、銀時は…というと団子を食べていた。

「お恥ずかしい限りです…。この通り食い意地がはってしまって」
「いえいえ、元気な証拠です」

檀家を務めている寺へと案内され、お茶をいただきながら元少年の話をきき頷き、話を聞き頷きを繰り返していると時間はあっという間に流れてしまった。

別れ際、元少年の青年になった姿を当時の私が見たらどう思っただろう…と考え、あの時の私には想像もできなかったことを元少年にしてしまった。

「大きくなりましたね。お父様もきっと喜んでいらっしゃるはずです」

自分と同じ背丈の青年の頭を撫でながら目を細めそういうと、青年は涙をためた瞳で「はい」と頷いた。


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