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基本、朧さんは「弟弟子」はスキでも、「白夜叉」はキライです。
「誑かしてません。師匠です」
かぶき町にも慣れ一人と一匹で留守番をしていたら天井裏から忍者が降ってきた。
曰く、「銀さんがどうして私に靡かないのかがわかったわ!あなたのせいねッ」
どうやら酷い勘違いを炸裂させているらしい彼女の誤解を解くべく話しかけてみる。
ちなみに彼女が話しかけているのは私ではなくテレビだ。どうやら相当目が悪いらしい…。
「いえ、私は銀時の師匠で、育ての親です。それとそれはテレビです。私じゃありません」
「まぁ、お父様!随分とお若い…」
「あの、それは定春くんです。私はこちら」
ガキじゃあるまいし、松陽だって留守番くらい一人でできるだろう…と高を括っていたのがいけなかったらしい。仕事から帰ると事務所のソファにド近眼の変態忍者が一人、なぜか照れくさそうにしおらしく座っている。
もう悪い予感しかしないんですけど…。
ってか、不法侵入なんですけど!!
おまけにオレを玄関先で出迎えたときから松陽は微妙な視線をオレに向けてくる。
まて、なにをあの変態に噴きこまれた!?
「銀時はあの方と結婚する気はあるんですか?いけませんよ、責任は…」
「変なこと吹き込まれてんじゃねーよ!全然関係ねぇから!あれ単なるストーカーだからッ」
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「だってアンタ300円までっつったじゃん」
深夜の仕事を終え、オレが家に帰ったのは朝日が昇る頃だった。
帰宅すると松陽が起きていて「おかえりなさい。疲れたでしょう」といって風呂と軽い食事を勧めてくれて、「あぁ…コレだよコレ!!」と忘れていた何かをくすぐられるような心境になった。
あー、オレもそろそろ結婚とか考えた方がいいんですかね。
いや、しないけどね!
一瞬そんなんが過っただけだからね!
まぁ、そんなこんなで腹も膨れて布団に入ったわけだが、昼近くになって事務所の方が騒がしくなり目が覚めた。
(なんだよ、こっちはまだ5時間くらいしか寝てねーっつーの!何やってんだよ)
で、襖を開けたらいたわけですよ、ロクでもないのが。ドS星のサド王子ががね、いたわけですよ!
おまけにその場には神楽もいるわけですよ!
頼むから帰ってッ
「ねぇ何やってんの!?帰れよ、頼むから!300円あげるからっ」
ドS王子曰く、暑かったから仕事をサボって涼みに来たらしいのだが、生憎この家にはクーラーなんて気の利いたものはないわけで…。何をしに来たかなんて大体想像がつく。なにせコイツも「虚」と戦った経緯を持つ。どうせ「松陽」のことを監視しに来たのだろう。
だがそんなオレの気苦労を知ってか知らずか、松陽のやつは困ったような顔をしてオレに小言をいってくるではないか。
「こらこら、いけませんよ銀時。なんでもかんでも300円で解決しようとするその癖。まだ治っていなかったんですねぇ。もう大人なんですから、せめてこれで…」
す…っと差し出されたのは一枚の硬貨。
「500円かよ!!なんも変わってねーよッ」
「そうですか??復活して以来、瑣末なことはすべて朧に任せっきりでしたから金銭感覚もズレてしまって…」
だが馬鹿は一人ではなかったらしい…
「仕方ない…。貴様のために金を出すなど不本意ではあるが…ここはコレで」
「1000円かよ!!!地味に高っ」
「端金だ。貴様のためにはこれ以上出す気がせん…。かといって、これ以上先生に出させるわけにはいかんからな」
「じゃぁ、占めて1800円ってことで〜、まいどあり」
テーブルに出された金をシッカリ握りしめ帰ってゆくドS。
「お邪魔しやした旦那、またきやす」
「ちょっと!!全部持ってくのかよっ」
300円はアレだよ?ものの例え的なアレだよ!??
「なんて金払ったりしたんだよ松陽!アンタ馬鹿なのかっ」
「師に向かって『バカ』とはなんだ!先生は不甲斐ない貴様の代わりに良かれと思って借金の肩代わりをしてくださったのだぞ!」
「はぁ!??なにそれ…まって、ちょっと待って!」
オレが寝ている間に、何があったんだよッ
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「川の字で寝るなんて、まるで親子みたいですね!」
万事屋の間取りは3DKだ。
一部屋は事務所に使ってて、もう一部屋は神楽の使っている押入れを擁したフローリングの部屋。んで、最後の一つが我が家のリビング兼オレの寝床となっている部屋なわけである。
テーブルを置けばみんなで飯が食えるし、テーブルを片付けて布団を敷けば寝室に早変わりってわけだ。和室ってのは実に使い勝手がいい。
というわけで、この家に松陽と朧の部屋などないわけだ。
じゃあ奴らがどこで寝起きしているのかというと、オレの部屋なわけである。
「起きて半畳、寝て一畳」とはよく言ったもので、畳の部屋ってのは洋室と違って固定家具もないため、寝ても起きても大人三人で不自由はない。
まぁ、圧迫感はあるけどな…。
主に「お」の付くやつの近くで圧迫感かんじてるけどな!!
そんなわけで松陽が家にきてからずっとオレたちは三人仲良く畳の上に布団を並べて眠っている。
しかしある日の真夜中、寝ていたオレの耳にコソコソ人の話し声が聞こえてきたわけだ。
(おいおい、オレは明日も朝早いんですけど?頼むから寝てくれよ~)
「朧…最近顔色良くなってきましたね。クマも前より薄くなって…」
「お気遣いありがとうございます」
(え?アレのどこが顔色いいの??)
「こちらでの生活にも馴染んできたみたいですし、私も安心しました」
「はい。一般社会にでるのは初めてでしたが、滞りなく」
(バカなのあいつ?全然馴染めてねーよ、こないだ間違って暗殺業務請け負ってきただろ!)
「失った時間は取り戻せない。でもこうして朧と銀時が仲良く一つ屋根の下で暮らせていることが、私には何よりの喜びです」
「…私も先生と一緒にいられることに喜びを感じています。だからもうそんなにご自分を責めないでください。私は充分幸せです」
(クソ…変なところで涙腺刺激してくんなよ…っ)
やめろ!
やめろよぉおおおおーーーー!!!」
お願い、それ以上は止めて!!泣いちゃうから!明日の朝、オレの目が真っ赤に腫れちゃうから!!
(ちくしょ…ぉ、やめろっつってんのに…)
明日からチョットだけ朧に優しくしてやろうかな…なんて思ったオレだった。
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「貴様のいう事だけはきかんぞ」
「おい、白夜叉…」
「いい加減その呼び方やめろよ」
「断る。貴様の指図は受けん」
一緒に住み始めてから結構経つのに、朧のやつは相変わらずオレを「白夜叉」と呼ぶ。
おまけに奈落にいたころより明らかに悪意的な表情をちょいちょいオレに向けてくる。
「感情を表すようになってよかったです」みたいなことを松陽はいってたが、違うからね!!
全然喜ばしいことじゃないからねッ
今日も仕事のことで朧からオレに声がかけられたのだが「白夜叉」である。とうとうオレから上がった注意の言葉に、松陽も加勢してくれたわけだが…
「確かに物騒な響きですねぇ。ここはひとつ『銀ちゃん』で。ね、朧?」
「わかりました」
「おいぃいいい!!!分かっちゃうのかよ!おまえいい歳して素直すぎだろっ」
「銀ちゃん…」
「やめろ!怖すぎる!」
その後、なんとか松陽(朧はダメだ。オレのいう事全然きかねー)を説得し「銀時」で落ち着いたのだが、32にもなろうという男がこれでいいのだろうか。
朧の将来が心配でたまらねーわ…。アイツ大丈夫なの??
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「野郎三人が並んで眠るとか、ホント勘弁してもらいたい…」
松陽を挟んで右にオレ。左に朧。
松陽が来て以来、いわゆる「川の字」で眠っているオレたちなのだが、相変わらず松陽は毎晩のように感激している。
「こんな日がくるなんて本当に夢のようですね…」
「はい先生、私も夢のようです」
基本、虚にも松陽にも先代首領にも絶対的に服従の姿勢を崩さない朧も、どうやら心底嬉しいらしい。
だがいい加減、オレもいい年した「大人」なわけですよ。
嬉しいよ?
素直に喜んでますよ?
でもさぁ、いい加減しんどくない??
この距離感、近すぎない!??
「オレにとっちゃ最早悪夢だ…」
素直にこぼれたオレの言葉に、速攻で朧が噛みついてくる。
「銀時!きさまっ」
「いい年した大人が、なんで三人並んで仲良くおねんねしなきゃならねーんだよ!いい加減、恥ずかしいわっ」
「恥ずかしくなどない!」
「そりゃ、アンタはファザコンみてーなモンだから、松陽と一緒で嬉しいだろうけどな!」
松陽を挟み、ガキの喧嘩みたいにギャイギャイやりだしたオレたち。
怒られるかなぁ…とも思ったが、そういえば一緒に住み始めてから一度も拳骨を食らっていないことに気が付いた。
ガキの頃は、高杉あたりと喧嘩してると問答無用で拳骨くらったもんだけどなぁ…。
まぁ、オレもいい年した大人だし、松陽もガキ相手とは違う対応してんのかな?
それは少し寂しい気もするが、確かにオレだってもう立派な大人だ。
瓦に捨ててあるエロ本を人目を盗んで読むような事ももうない。AVだってみるし、エロ本だって立ち読みするし、金があれば風俗にだっていく「大人」だ。
…と思っていたら、拳骨とは別の方向から地面にめり込むくらいの衝撃を食らわされた。
「でも物理的にこの家、狭いですから…。二人とも諦めてください」
「そうですね…」
え?なにそれ…ちょっと、松陽先生??
クソ朧は置いといて、松陽先生!??
「二人してオレの稼ぎが悪いみたいな言い方すんな!!」
「自覚はあったのか」
「仕事が仕事ですから…。ね、朧も諦めましょう」
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「仕事しかしてこなかったダメ人間に休日の過ごし方を教えてやった」
「朧…オメーはホントっわかってないわ!ダメだわ!」
ホントに仕事できる奴ってのはなァ、ガス抜きの仕方も上手いんだよ!とオレに説教をされているのは物心ついたころから奉公に明け暮れ、挙句、奉公先を奈落に潰され結果的に奈落に身を寄せるという「仕事」以外の人生が存在しないまま32年間生きてきた男である。
この男、奈落を辞め、万事屋に身を置くようになった今でさえ、休日を休日らしく過ごせていないという絶望的な仕事人間であった。
「そんなんだから目の下にクマとかできるんだよ、オメーは!」
「それは関係ないだろ」
「趣味とかねーのかよ」
「自分の時間を過ごすくらいなら、先生のためになることをしたい」
「趣味が先生とか、重症だなおまえ…。自分の年考えろよ、引くわ」
「貴様はどのように休日を過ごしているのだ。俺のことを貶すくらいだ、さぞ高尚な趣味を持っているのだろうな」
ということで休日の正しい過ごし方を朧にレクチャーしてやっていたら、オレの貴重な一日が終わっていた。ナンダコレ。
商店街散策にカラオケにボーリング、バーにいって酒を飲み、帰りは人生初の電車を利用、とまぁ、一般的なことを教えてやったのだが…さて朧的にはどうだったのだろうか。
オレとしては、初めて朧と二人だけで過ごす時間は、まぁ、悪くはなかった。
ってか、松陽がいなければ基本、朧のやつは普通に根暗なだけの男だった。
いや、外見からくる偏見とかじゃないくてね?
ホント、あいつ松陽のいないところでは基本目の下のクマと相まって憂鬱そうな男だから!!
(ってか、つまり全部アンタのせいじゃねーか、松陽!!)
「朧、人生初の『休日』はどうでした?」
「…悪くはなかったです」
「銀時とどんな話をしたんです?」
「…」
朧が人生初の『休日』だと知り、「ほんとブラックもいいとこだな」と銀時に憐れまれたのが本日のハイライト。
『おまえは世間知らずみてーだから自覚ないんだろうけどな、殺人云々以前に休日のないおまえの元職場はヤバイぞ…』
『仕事内容はともかく、それでも国家公務員のエリートだ』
『税金泥棒が!自営業なめんなよォオオオ!!!』
「自営業は最高だといって泣いていました」
「へぇ…」
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「恩は返す」
人探し・物探し・浮気調査など探偵事務所の様な仕事から、屋根の修理といった大工仕事・退魔師の真似事など、「万事屋」の名に恥じぬほど仕事を選ばずに何でもやっているようだな。
巷での評判は微妙だが、ちょくちょくお客も来ている。しかしそれが事件の種になる事が多い上に、危険な仕事程依頼料が発生しないケースが多い…。
「結論から言うと、少しは仕事を選ぶべきだな」
社長椅子に座りテレビを見ていたら、突然、書類片手に真面目腐った顔をして朧が話しかけてきた。
ってか喧嘩を売ってきやがった!
おいおい、家賃は松陽が払ってるし、お前は実質単なる居候なんだぞ?世の中ナメてんのか!?
「おまえ喧嘩うってんの?」
「逆だ。貴様の今後を心配している。俺は貴様と違い、恩はキッチリ返すタイプだ」
どうやら先日、休日の過ごし方を指南したことを「恩」ととったらしい。
意外と素直で可愛いところがあるじゃねーか。
ちょっと松陽がコイツを可愛がる気持ちが分かったような気がした。
「じゃあ何かいい案でもあるのかよ」
「俺を誰だと思っている?裏切り者から一転、奈落において立身出世を果たし、首領にまで上り詰めた男だぞ。俺のいう通りにすれば、まず間違いはない」
敏腕プロデューサーのような朧の言葉に、一瞬「それで金が手に入るなら…」と思いかけるが、ちょっと待て!落ち着けオレ!
「なんかスゲー説得力あるけど、でも従っちゃいけない気がする!」
「今すぐ万事屋の経営方針を変更しろ」
「いや、無理だから!」
「銀時、貴様は自分の将来が不安ではないのか!?」
「自分の将来より、お前の頭の中の方が数万倍不安だわ!!!」
思わず朧の頭を叩いていた。
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
「え、奈落って免許持ってないの?それで国家公務員とかやってけたの??」
「じゃ、オレの代わりに屋根の修理頼むわ。遠いから原付乗ってっていいぜ」
「原付…?」
「そう、原付」
「…」
松陽の看板の効果なのか、オレたちと違い真面目に仕事に取組み成果を上げて帰ってくる朧の力なのか、なんなのか…。ここ最近は全員が仕事で出払っている日が多くなっていた。
そんなある日、遠方だが割のいい屋根の修理の助っ人の依頼が来た。頼んできた棟梁は気前のいい男で、いつも割増しで代金をくれるからオレとしては何としても繋ぎ止めておきたい顧客の一人だ。
しかし別件で仕事も入っており、顔見世の意味も兼ねて朧を屋根の修理に向かわせることにしたのだが…。
「おい、まさかとは思うが…お前…原付知らねーの!?おいおい、まさかとは思うけど免許持ってるよね??」
「…」
「うわ〜、今時、免許持ってない人間とか時代の遺物だよ!?わかってる?勘弁してよ〜」
「…」
「厨二病キャラもいいけど、免許くらい持っててよ〜。失望したわ、幻滅したわ、奈落たいしたことないわ〜」
「調子にのるな…。そんなものが無くともヘリがある。車がある。船もある!」
「ばっかでぇ~。この家にそんなモンあるわけねーだろ。くる場所間違えたんじゃね?高杉のところにでも行けよ」
貧乏自慢みたいで恥ずかしいが、ないものはない!
「もう走って行けよ。それしかねーよ。電車もバスも通ってねぇ場所だし、それしかねぇよ。だって免許ないんだもの。原付しらないんだもの」
「銀時…貴様ッ」
またしてもギャイギャイやり始めたオレたちに神楽も新八も我関せずを決め込んでいる。
そうなってくると、ここ最近、松陽がオレたちを宥めに入る…というパターンがセオリー化しているわけだが、どうやら今回はそんな簡単な話では済まないようだ。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きましょう。実は私も免許を持ってないんです。どうでしょう、この際思い切って一緒に免許をとってみませんか、朧」
「先生と免許をですか…!?」
「えぇ、私と共に道路交通法と車の操縦術を学びに行きましょう!」
「よろこんで!!」
瞳を少年のように輝かせて「先生と何かを一緒に学べるなんて夢のようです!」とかなんとかいいながら、朧のやつは松陽と一緒に教習所の入学手続きへと出かけてしまった。
おいおい…マジかよ。仕事は?ねぇ、仕事は!!?
「人手が足りねぇッつってんだろ!!フザケンナよお前らぁああああ」
というわけで教習所に通い始めた朧と松陽。
次回「私の生きていた時代に原付などなかった…(膝から崩れ落ちる松陽」をお楽しみに。
いや、嘘だけど。
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