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マダラちゃんが妊婦さんになるお話のつづき
最近兄者はよく物をもらってくる。
そしてマダラに「頂き物ぞ~」といって笑顔で渡すのだ。
渡されるものの大抵は妊婦の身体に良さそうな食べ物ばかりだった。
それの意味するところが分からないオレたち三人ではない。
マダラの妊娠発覚から早5カ月。大きく膨れきったマダラの腹は妊娠9カ月目に入っていた。
マダラの妊娠は公表されていないため臨月もオレたちとマダラ専属護衛の数名しか知らない。
男の多い忍社会において、どうやらマダラの腹の大きさから臨月を導き出せるものはいなかったらしく、どうにもタイミングのズレた贈り物だった。
ほぼ子供はマダラの腹の中で育ちきり、オレや兄者、そしてマダラ専属護衛の者たちは胎動などの感動的な瞬間にも立ち会った後で、産まれるのを今か今かと待ち構えている段階なのだ。
しかし果たして男に子が産めるのか…。
オレは事ここに至って初めて大きな疑問にぶち当たった。
通常であれば、子供は子種が入ったところから出てくるのである。しかしマダラは男だ。
(どうやって産まれてくるんだ…産まれてこれるのか??)
オレは真剣に考えた。
どれくらい真剣に考えたかというと、マダラに精密検査を受けさせ兄者の木遁チャクラを帯びた精子がマダラの体内にどのような変化をもたらしたのか、その根本原因から追究し始めるほど真剣に考えた。
そして木遁チャクラを帯びた精子がうちは一族の体内に注ぎ込まれると、ある一定の変化が生じることをオレは突き止めた。つまり特に力の強い者同士でこれが行われると、兄者とマダラのような事象に見舞われる…のではないかという結論に至った。
ちなみに非人道的な研究は一切していないので、すべては机上の空論だ。
なににせよ、千手とうちはの血は「混ぜるな危険」というやつだったのだ…。
その危険物を混ぜ合わせた結果、オレの可愛い甥っ子イズナが産まれてくることになったのだが、しかし産まれてくるための「穴」まではさすがに用意できなかったようだ。
なにぶん、男が子を産むなど初めての試みであり前代未聞。そのためマダラは妊婦ではあるが、産婦人科と内科と産婆の三カ所でそれぞれ世話になっていた。
(本当に大丈夫なんだろうな…)
兄者などはマダラの腹に頬ずりをして「早く元気に産まれてくるのぞ~」と言っているが、わかっているのだろうか…。マダラには子を産むための「穴」がないのだ!
この事実に気付いて以来、オレは一人、眠れない夜を過ごしている。
(まさか、ケツの穴から子を産むわけではあるまい…物理的に絶対無理だ。兄者のアレが入ったとしても、イズナは絶対に出てこれない!!)
マダラの妊娠を知った当初、オレはこんな疑問など持たなかった。
男が子を孕んだのだ。その事の方に驚いた。
しかし一応、妊婦であるマダラは木の葉母子手帳を交付され、妊婦としての知識や心得を身に着けるべく専門雑誌や一族の巻物などを読み始め、出産に向けての準備を始めていた。
そんなことを兄者と二人して家の中でやられると、当然オレも巻き込まれるわけで…。
しかし入ったところから出てくるのであれば、マダラの場合、一つしかないわけで。
(本当に産まれてこれるんだろうな…)
不安で不安でたまらない。
しかしだからと言ってマダラに尋ねることも憚られる。
あぁ、オレは一体どうしたらいいんだ!!!
オレのイズナは無事、産まれてこれるんだろうな!?
千手の女たちに訊いても入れた場所が違うのだから参考にならないことは分かりきっている。
では誰に尋ねたらオレの疑問や心配は解消されるのか。
「おい…いい加減、そういう目で俺を見るのはやめろ」
今日も今日とて、マダラの腹と尻、そして時々顔に厳しい視線を向けていると、うんざりしたようにマダラから文句を言われた。
しかし、そうは言われても疑問が解消されない限り安心できない。事は人ひとりの命に係わるのだ!
オレは覚悟を決め、目を通していた報告書を机の脇に置き、マダラへ問いかけた。
「マダラ…おまえ、どうやってイズナを産むつもりだ…」
オレが云わんとしていることが伝わっただろうか。できれば多くをオレの口から語ることだけは避けたい。
祈るような縋るような、何とも形容しがたい気持ちでマダラの返答を待っていると、以外にもあっさりした答えが返ってきた。
「男の俺には子を産むための穴はねぇ。加えて男の身体では出産に耐えられないそうだ。時期を見て、帝王切開で子供を取り出すらしい。なににせよ、来月には産まれるぜ」
「そうか…」
「安心したか?」
「あぁ…。で、帝王切開とはなんなんだ?初めて聞くが、新しい術かかにかなのか」
「ま、そんなところだ」
しかしその日の夕方、書庫で「帝王切開」の意味と工程を知ったオレは軽い錯乱状態に陥るのだった。
「マダラがどうなろうと構わないが、本当にこれでイズナは無事に産まれてこれるんだろうな!!?無理やり腹から取り出して、ショック死でもしたらどうするんだッ」
「落ち着くのぞ扉間!大丈夫ぞっ」
「兄者はなにも分かっていない!腹を切り裂くのだぞ!?力加減を間違えてイズナが怪我でもしたらどうするんだ!マダラは普通の妊婦とは違うのだぞ、安易に考え過ぎだ!」
・:*三☆・:*三☆・:*三☆
帝王切開への不安を抱えつつ、とうとうマダラの出産日がやってきた。
あの日以来、オレはマダラの通院に常に付き添い、担当医とも何度も話し合った。
不安は尽きないが、とにかくイズナを取り出さねばならない。
「お前はよく平気でいられるな。通常の妊婦でも死亡例が報告されているのだぞ。お前から母乳が出るかはわからんが、イズナに初乳を与えるためにもしばらくの間は生きていてもらわねば困るのだ…」
真剣なオレの様子に、マダラは「落ち着け」と返してくるが落ち着いてなどいられない。
切り裂く場所は違えど、イズナが亡くなったのも腹の傷が原因だ。
それはオレが戦場でつけた傷だったのだが、同じ名を持つイズナが、よりによって腹を切り裂き産まれてくるなど何の皮肉だろう。
そわそわと落ち着かないオレに、仕事を休み病室に駆け付けた兄者は「落ち着くのぞ~」と同じくそわそわしながら説得力のない言葉をかけてくる。
マダラは…といえば、麻酔が効いてきたのか、少し目をとろんとさせ始めた。
通常は腰椎麻酔だが、マダラの場合は常軌を逸した出産のため全身麻酔が採用された。
麻酔の量を間違えれば、マダラはこのまま意識を取り戻さない可能性もある。なにより、すべての麻酔薬はマダラの身体を通して胎児であるイズナに影響を及ぼすため、全身麻酔での帝王切開術は時間との戦いになるのだ。
マダラの様子を確認し、オレはすぐさま医師を呼びに飛ぶのだった。
「瞬身の術!」
「頼んだぞ、扉間!お医者を早く呼んできてくれッ」
手術が始まって一時間が経過した。
兄者は手術開始直後から「マダラ、マダラ」と病室の扉に縋りつき、今では病室の扉の前で泣き崩れている。頼むから泣き止んでくれ、不吉すぎて見ていられない。
一方、オレはというと、ひたすら廊下にある時計の針を睨みつめていた。
手術時間は通常1時間弱、長くても大抵2時間程度で終わるといっていたが、既に1時間5分が経過している。
(やはり一筋縄ではいかないか…)
そもそも産婦人科のあの医師はどうにも信用がならなかったのだ。
今日の手術を決めた時も、マダラの腹を少し触診しただけで「もういいでしょう」と今日の天気でも話すような気軽さで決定したのだ。当初の出産予定日から10日も早い出産にオレだけではなく兄者も不安を抱えていた。
(なにが「もういいでしょう」だ。ふざけすぎだ!)
何がどういいのか詰め寄っても全く要領の得ない回答だったこともあり、椅子に腰かけ待つことしかできないオレの不安と怒りは最高潮に達するのだった。あの赤子の泣き声を聞くまでは…。
「産まれたのぞ!??」
赤子の泣き声に真っ先に反応したのは兄者だった。さすが父親といったところか。
そう、兄者はもう「父親」なのだ。
そしてオレは「叔父」なのだ。
扉を叩き「ここを開けてくれ!」と叫ぶ兄者の声とイズナの元気な泣き声を聞きながら、不安と緊張から一気に解放されたオレは一人静かに泣いた。
しかしこの感動の最中にあっても、兄者は通常運転でうるさいのだった…。
「開けるのぞ!ここを開けてくれ!開けぬというのなら、俺にも考えがある!!」
「兄者…少し静かにしてくれ。今日という日を、オレの心に刻みたい…」
「なんぞ…扉間、おぬし、泣いておるのぞ!??」
「だまれあにじゃ…」
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