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マダラちゃんが妊娠するお話の続き。
長めの連載になります。




オレにはかつて二人の弟がいた。名を瓦間と板間という。
オレは柱間という人間の弟であると同時に、かつては瓦間と板間の兄でもあったのだ。

いまはもういないけれど…。

でももし、自分に子が産まれたら、きっとオレはその子に「瓦間」と名付けるだろう。そして次の子供には「板間」と名付けるはずだ。
オレはオレが思っている以上に女々しく、そして傷つきやすく繊細なたちだったようだ。まさか子供の名前でこんなことが発覚するとは…。もう少し精進するべきかもしれない。

なににせよ、マダラの腹の子は五カ月を過ぎ、出産予定日も決まり、こうなってくるといよいよオレの中で「子供の名前」というものが重要性を帯びてくるのだった。


その日、オレは何の気なく庭にでて兄者の育てている盆栽に兄者の代わりに水をやっていた。
兄者は…というと連日溜めに溜め込んだ机仕事がとうとうのっぴきならなくなり、朝早くから執務室へ出かけていったのだった。ちなみに、オレとマダラはそんなに兄者を冷たい目で見送り、休日を謳歌している。

謳歌…といっても、オレはこうして兄者の代わりに家の雑務をこなし、マダラはマダラで身体の都合上外出を控え庭にでて日向ぼっこをしていたようである。
千手邸をぐるりと囲む広い庭の中、こうしてマダラと遭遇したのも運命と言って言えなくはない。オレはマダラの身体を気遣いつつ、先日から聞きたくてたまらなかった話題を切り出す決意をした。

産まれてくるのは千手とうちはの混血だが、どのような名前を付けるにせよ名字だけは「千手」で確定している。でなければマダラが千手邸に身を寄せるはずがない。
ということは残る問題は名前である。

既に察しの良い者なら理解していることとは思うが、千手家は代々名前に「間」が付く。仏間、柱間、扉間、瓦間、板間、などなど。
一方、うちはにも名前には妙な規則性が見て取れる。タジマ、マダラ、イズナ、ヒカク、セツナ、などなど、どの名前もみなカタカナで三文字なのだ。

どうあっても、子供の名前を決めるにあたり問題となることは目に見えている。
それにオレは子の名前は「瓦間」と心に決めており、兄者にもそれとなく打診してある。

しかし…だ。マダラにぞっこんな兄者のことだ。マダラに頼まれれば子供の名前を千手伝統の名付け方に従わず、カタカナ三文字の「千手なにがし」にしかねない!

(なにがしでは困るのだ。子の名前は「瓦間」でなくてはっ)

オレは意を決し、マダラへと口を開いた。

「腹の子は順調か」
「あぁ…たぶん順調なんだろう。医師からは特に何も言われていないからな」

妊娠後、マダラは特に好んで体のラインのでないうちは装束を着るようになった。仕事のない休日でさえうちは装束で過ごしているほどだ。
元々細身だったこともあり、胴回りに関してはむしろ健康的な太さになったともいえるが、いかんせん他の部分が相変わらずなため、やはり腹の大きさが目立っている。
オレはその膨れた腹を見つめながら、少しの緊張とともにさりげなく話を切り出した。

ここでマダラの不興を買っては、決まるものも決まらなくなる。
子の父親は兄者だが、産むのはマダラなのだ。

もしマダラが一人で勝手にさっさと子供の名前を決めてしまったら…。

絶対に兄者はそれに従う!!「よいのぞ~」とか言ってる姿が目に浮かぶようだッ

「なぁ、マダラ…」
「なぁ、扉間。少し話が…」

オレの心中を察したのか、マダラがオレと同じタイミングで口を開いた。しかも「話がある」だと!??
最早、不吉な予感しかしない…。
しかしここで自分の話を優先させ、マダラの不興を…略…

「なんだ、どうした。珍しいな。お前がオレに改まって話を振ってくるなど…嫌な予感しかせんのだが?」

つい口から洩れる嫌味はこの際目を瞑ってもらうしかない。長年の習慣とは恐ろしいものだ。マダラには嫌味を言わなければ気が済まないという…自分自身が恐ろしい!
この先、こんなことを続けていればどうなるのかは目に見えている。

(マダラに家から追い出されるかもしれん。しかし子の名前だけは、これだけは!!!)

だが当のマダラはオレの心配をよそに、気にした様子もなく言葉をつづける。と見せかけて実は気にしていた!!

「そうだな…確かにお前にとっては余りいい話ではないかもしれん」
「そうか…お前のその言葉でオレは粗方を理解した」

家から出ていくよう勧告を受けるのだろう。オレはそう思った。
マダラは兄者の妻ではない。しかしマダラが産む子は兄者の子で、千手頭首の長男なのだ。そして火影の長男でもある。
さらに産まれてくる子は木遁と写輪眼の両方を有している可能性もあり、つまり水・土・火の三つの性質変化をもつ、まさに最強の…

「相変わらず察しがいい。そうだ…おまえには酷な話かもしれんが、子の名前を『イズナ』にしようと思っている。柱間にはまだ伝えていない。最初にお前に伝えるべきだと思ってな…」

まさに最強の…

「子が出来たと分かった時から決めていた。だから産む気になったんだ。でなかったら、誰がこんな訳が分からない現象になど付き合うと思う?」

自嘲気味に俯きながらマダラは続ける。

いくら柱間の子といえど、男が妊娠?出産?ふざけるにも程がある。
俺は正直いまでも半信半疑だ。
でも、もし本当に、夢でも幻でもなく、俺のこの腹の中に赤ん坊がいるというのなら、俺は産んでやりたい。そしてイズナの分まで愛してやりたい。幸せになってほしい、柱間と俺が作った、この里で。

「イズナでいいんじゃないのか」
「…ほんとうに、いいのか??千手では代々子供に…」
「オレは、イズナの幸せな姿が見てみたい…」
「とびらま…っ」

オレたちはその瞬間通じ合った。
長くオレたちの心にあった言葉にできないものが浄化されていくようだった。この日のことをオレは一生忘れないだろう。

マダラはイズナを愛していた。
そしてオレもイズナを愛していた。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

妊婦になったマダラはオレたちとは違う規則正しい時間の中で生活するようになっていた。
曜日感覚や休日という概念の薄い忍の職にあって、いわゆる平日出勤の土日祝日休みというやつになっていたのだ。しかも勤務時間はきっかり九時から五時までという徹底ぶりだ。
これを決定した兄者は当初、マダラの穴を埋めるべく張り切って仕事をしていたが、しょせん兄者は兄者でしかない。どう頑張ってもマダラという戦力を失った穴は大きく、日を追うごとに木の葉の書類関係の業務は滞りがちになっていく。

滞りがちになってゆく…のだが、マダラが妊娠六カ月目に差し掛かった頃、更なる問題がオレを襲うのだった。

いわゆる「妊婦特有の情緒不安定」というやつだ。

オレの目から見ればうちは一族などというものは普段からみな一様に情緒不安定なのだが、マダラのそれは特に常軌を逸し、オレを恐怖のどん底へと叩き落とすこと数度。
原因が妊婦特有の情緒不安定であることがわかるまで、オレは生きた心地がしなかった。

「とにかくすべては産まれてくるイズナのため!」と自分に言い聞かせ、自分を律し、あらゆるマダラの情緒不安定と我儘に耐え抜いた。

真夜中に肉が食いたい…と言い出した時は、時間を無視して精肉店へと瞬身の術で飛んだ。
食べ物の好みも変わり、お茶の濃さから碗の色に至るまで不平不満を漏らすようになったマダラに合わせ心を砕き料理した。
庭の植木を見つめて泣き出した時には「とうとう気でも触れたのか!!?」と恐れおののきながらも、手拭いを差し出し泣き止むまで慰めもした。
退屈だと言われれば、兄者の幼少期の話を聞かせたり、逆にイズナの思い出話を延々と聞かされたこともある。

「なにやらマダラと扉間は最近とみに仲が良いのぞ。これでは誰が父親か分かったものではないのぞ…」

ヘソを曲げる兄者に呆れつつ、兄者をヨイショし、マダラの機嫌を取り、更には腹の子の生育にも気を遣う。
正直もうぐったりだった。

元来、オレは他人に気など使わない合理主義者なのだ。

ところが兄者もマダラも腹の子も、まったく道理が通じない。自分勝手な猫のように風の向くまま気の向くままオレを振り回す。
とうとうオレが疲れ切ったころ、ようやくマダラの情緒不安定の謎が解け「妊婦とはこのようなものなのだ」と理解し、素直に応援を頼むことと相成った。

「それでは、イズナとマダラのこと、くれぐれも頼んだぞヒカク」
「わかっております。ご安心を」

心強い助っ人、その名はうちはヒカク。マダラのかつての腹心の部下だった。
「かつての」と表現せざる負えない理由は察してもらいたい。この里は未だ、察して黙ることだらけなのだ。

マダラの妊娠も、火影のマダラ贔屓も、うちは一族と族長マダラの関係悪化も、そしてマダラが唐突に仕事を休む理由も、千手邸に住んでいる理由も、木の葉に住む「忍」ならば公言は差し控えるのが当たり前。
そして忍でない者も、空気を読み口を噤んでいた。

表向きは…。

実際には「もう直ぐ木の葉に最恐の忍が産まれるらしい」という噂がオレの耳にまでしっかり届いているのであった。

しかし「うちは一族」というのも分からないものだ。族長と距離をとるようになったからと言って、族長が千手邸に居を移しても文句ひとつ言わず、族長妊娠の噂が立っても怒鳴り込み一つせず、執務室でマダラの腹を見ても素知らぬ顔をしてやり過ごしていたというのに、「マダラの面倒を見てもらいたい」とダメ元で頼んでみれば笑顔で引き受ける始末だ。

(やはり奴等のことは理解に苦しむ)

とはいえ、三交代制でうちはから人が来てくれるのはありがたい。例えば今朝のように、起き抜けからマダラが情緒不安定で万華鏡写輪眼を引っ込めることなくさめざめと泣き始めた時などは特に有難い。
いい加減オレにも仕事がある。兄者にも仕事がある。いつまでもマダラばかりにかかづらってばかりもいられないのだ。
昨日頼んで今朝には笑顔で千手邸にやってきたヒカクはまさに地獄に仏のようだった。

(今日は仕事に集中できそうでだな)

あとはオレたちが帰宅するまでにマダラの機嫌が治っていればいうことはない。
先日のことだが、あれはとにかく酷かった。
午前中、機嫌よく仕事をしていたマダラだったのだが、何が琴線に触れたのか兄者の書いたミミズの這ったような覚書を見てマダラが泣き出してしまったのだ。

曰く「感動した」らしい。まったく意味が分からない。

ちなみに、書かれていた文字を解読したところ「夕食は天丼がいい」と書かれていた。

どれだけ待っても泣き止む様子がなく、余りに手の付けようがなかったため早引けさせ午後から家で休むよう取り計らったのだが、それがいけなかった。
兄者とオレが夕方帰宅すると、玄関の上り口で明かりもつけず正座したマダラがオレたちを出迎えたのだ。

その時の目の恨めし気なこと。

兄者はなぜか浮気を疑われ、オレに至っては自分に嫌がらせをしているのではないかと事実無根の疑いを掛けられ、その日は夕食も食べず、ひたすらマダラの機嫌を二人でとり続けた。
なんでも3時に茶菓子を食べたあたりから急に不安になったとかで、延々とオレたちの帰りを、冷たく固い床の上で正座しながら待っていたのだそうだ。
夕方の冷え込みをもろに食らい、マダラの身体は冷たくなっており、その後体調を崩し医師を呼ぶことになった。
そしてオレたちは医師に叱責された。

「妊婦になんてことをさせているんですか!!」

「流産」の二文字がちらつく叱責にオレはイズナを失う恐怖に恐れおののいた。そしてオレもその後、軽く鬱になり、兄者に迷惑をかけた。

もう二度とあんなことは御免だ。
イズナには元気に産まれてきてもらいたい。

そんな事があり、少しの間はオレと兄者が交代でマダラに付き添っていたのだが、それにも限界があった。そしてオレの苦肉の策で「マダラ専属護衛」を設けることとなり、千手とうちはからローテーションでマダラの面倒を見ることになったのだった。

今日は慣れ親しんだヒカクが来ているのだから、先日のようなことはまず起こるまい。
オレはほっと胸を撫で下ろし、まだ見ぬ甥っ子へと思いを馳せた。

兄者に似て美しく整った黒髪を持ち、うちは特有の色白さを受け継いだ目鼻立ちの整った愛らしくも美しい、かつてのイズナのような子が産まれるはずだ。

(性格は少し兄者に似ていてもいいな。うちはの性格は問題がありすぎるからな)

巻物に筆を走らせながらオレは出産予定日までの日数を胸の中で数えるのだった。

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