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イズナちゃんはイズナちゃんの生まれ変わりなのです。




切欠は些細な一言だった。
いつだってそうだ。
兄者が自殺未遂したのもオレの些細な一言だったし、今こうしてマダラを怒らせているのもまた、オレの些細な一言だった。

しかしその一言は些細にして重大な意味を持つ一言であったのだ。


マダラがイズナを出産して二カ月が経ったある日、オレは何気なく、本当に何気なくマダラに向かって「いい母親になったな」と目を細めて声をかけた。

帝王切開だったこともあり、マダラの体調が元に戻るのにたっぷり一カ月半の時間がかかった。その間、イズナは授乳の時を除きオレとマダラ、そしてときどき兄者の三人の交代制で面倒を見ていたのだが、マダラの体調が戻ってからはマダラ中心に子育てが移行していた。
とはいっても、オレは「うちは」の血を信用していないため、当然その教育方針にも不安を持っており、暇さえあればイズナの元を訪れ間違いがないかチェックしていた。

そんなオレの様子を桃華は兄者から聞いたのだろう「小姑染みたことはやめろ」と注意を受けたが気にしない。これはイズナの人格形成に関わる大きな問題なのだ。ここで失敗があったらどうなることか!

「第二のうちはマダラを生み出すわけにはいかん!」
「お前は自分の兄の血が信用できないのか?」
「千手の血をもってしても、うちはの呪われしヤンデレの血だけは変えられんかもしれん!オレはそれを心配しているのだっ」
「私は貴様の方が心配だ…」
「黙れ!!」

そんなやり取りを経て、オレは昼休みを使いマダラの元を訪れた。
マダラは日中、日のよく当たる屋敷の中で一番暖かい部屋でイズナとともに過ごしている。今日も例にもれず、いつもの部屋で生後二カ月になるイズナをあやしている最中だった。
部屋には世間でいうところの「乳臭い」香りが漂っており、火鉢で暖められた部屋の温度と、縁側から差し込む日の光によって何とも懐かしい空間が広がっていた。

その昔、オレたちが修行から帰ってくると、まだ幼い板間をあやしながら、母上が「お帰り」といってオレたちを迎えてくれた、あの空間のような、言葉では言い表せない優しい空気が漂う空間なのだ。
子供のころ、オレはその空間が好きだった。
そして今も変わらず好きなのだ。

鼻の奥がツン…となるような、思わず泣き出したくなるような、何者にも侵しがたい特別な空間がそこにはあった。

そんな空間を前に、オレは開け放たれた障子に身を隠すようにしてイズナたちを見守っていたのだが、早々にオレの存在に気付いたマダラは、イズナに向けていた顔を上げ、オレの隠れている障子へ声をかけてきた。

「今日は来ないのかと思ったぞ」

イズナを胸に抱き、無防備にオレを振り返る姿は、在りし日の母上を彷彿とさせ、オレは心からマダラを「母なのだな…」と思った。そして言ってしまったのだ。

「いい母親になったな…」と。

しかしこの言葉を聞いたマダラはそれまでの柔和な表情が嘘のように、鬼のような形相になると低くドスの利いた声で一言。

「俺は『母親』じゃねぇぞ、コラァ」
「・・・」

以降、マダラの機嫌が回復するこはなく、夕餉の席でもピリピリとした雰囲気が漂うこととなったのだった。



「のう扉間…なんぞあったのか?」

その空気に最初に根を上げたのは兄者だった。
実はマダラの出産を機に、それまで男所帯だった千手邸に、使用人を雇い入れたのだ。台所に庭木の手入れ、雑用などのために数人の使用人をやとったのだが、その誰もが住み込みではないため夕刻には皆帰ってゆく。よって兄者はこの家を支配する空気の理由を誰にも尋ねることが出来ないまま、帰宅後、ただただピリピリした空気の中、夕餉を食していたのだった。

何か変だ…とは思うのだが、何が変なのかは分からない。

しかしここはさすがといえよう。床の間を背に、上座に座る兄者は、本能的にマダラから距離をとって食事をしており、自然、距離の近くなった下座に座るオレに仔細を訊ねてきたのだった。相変わらず変なところで要領のいい兄者である。
ちなみにマダラは千手邸に居を移して以来、床の間に次ぐ上座である部屋の右奥に座っている。
おそらくイズナが成長したとしても、この配置に変動はないだろう。イズナがいかに千手族長の長男といえど、うちは一族の長を押しのけ、上座に座ることはまずない。

この家の縮図がまさにここに描かれているわけだが、オレを頼って無意識に下座ににじり寄ってきた兄のこの行動もまた縮図と言える。

(さて、どうやって説明したものか…)

たくわんを咀嚼しつつ思案に暮れたオレは、仕方なく昼間に起きた出来事をそのまま兄者に耳打ちした。すると馬鹿正直な兄者は、ふむ…と相槌を打った後、マダラに聞こえる声で、「しかしマダラはイズナの母ぞ?」と口を開いた。
この後どうなるかなど、兄者もマダラとの付き合いから分かっているだろうに、学習能力のないことだ。

案の定、マダラは耳ざとくその言葉を聞きつけ、戦場で見せたような鬼の形相で即座に兄者の言葉を否定しにかかった。

「俺は『母親』じゃねぇ!!」

そうなのだ。マダラの言っていることは正しいのだ。
『母親』とは文字通り、母である親を指す。そして母とは一般的に女性を指すのだ。マダラは確かにイズナを産んだが女ではない。
つまり『母親』ではないのだ。
しかしだからといって『父親』とも言い難い。

そもそもだ、イズナが言葉を話すようになったらマダラのことをどのように呼ばせるべきなのか…。オレの思考はそこで立ち止まったまま動けなくなってしまった。

兄者のことは『父親』だ。
オレのことは『叔父さん』だ。
では自分を産み、乳を与え育てた男のことを、イズナは何と呼べばいい?

(いったい、何と呼べば…何と呼ばせれば…)

オレが考えねば。このオレが!

「マダラ」というこの世の理から逸脱した一人の人間に与えるべき正しい名称を探求するオレのその横では、問題のマダラが兄者に食って掛かっている最中だ。

(イズナのためにも、ここは、丸く収まる呼び名を…何か、新しい…呼び名をッ)

その時、オレの脳裏にある一文が蘇った。

「母」という漢字の成り立ちは「女」に2つの乳房を加えた象形文字であり、子への授乳者であることを意味する。というものだ。

「落ち着けマダラ」

答えを導き出したオレは賢者のごとき眼差しで、兄者を責めたてるマダラを押し留めた。

「マダラよ、落ち着いて聞け。やはり貴様は『母親』だ」
「ふざけんな!!一人素知らぬ顔してたくわん食ってると思ったら、馬鹿かテメェは!!俺は男だッ」

胸倉を掴み上げられたオレはそれでも賢者のごとき姿勢を崩さなかった。

「いいか、よく聞け。物の道理をわきまえたお前になら分かるは…ブホッ」

「マダラ!暴力はいかんぞ、暴力は!!たのむ、落ち着いてくれッ」

怒り狂うマダラに道理などないのだった。
殴られたオレを庇い、兄者がマダラを宥めすかし「父親ぞ、マダラは父親ぞ!」と言い出したが、オレはそれを許さなかった。

「いいやマダラ、貴様は紛うことなき『母親』なのだ!!」
「表に出やがれ扉間ァアア!!!」

「もう止めてほしいのぞ!どちらでもいいのぞ、マダラが親であることに違いはないのぞッ」

もう滅茶苦茶だった。誰もが思ったであろう、この命題に答えなどないのだと…。
しかし襖の向こう側から眠っていたはずのイズナの泣き声が聞こえてきたとき、真っ先にマダラがイズナの元へと駆けていった。

「うぎゃぁああーーー」
「どうしたイズナ。一人で寂しかったのか?ごめんなぁ…よしよし」

その瞬間、オレたちは確信した。やはりマダラは『母親』なのだ…と。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

オレが顔に青あざを作った翌日、その日は丁度イズナの定期検診の日だった。
昨日の今日でマダラの気を損ねるのも気が咎めたオレたちは、敢えて昨日の話題に触れずにいた。

誰が母親なのか、そんなことはオレたちだけが分かっていればいいことだったのだ。

オレがらしくもないそんな思考に辿り着いたとき、皮肉にもマダラは母子手帳を片手にイズナを抱いて出かけるところだった。

母子手帳。それは母と子の手帳である。

その光景に兄者は「父子手帳も作った方がいいかのぉ…」と呟いたが、オレは、それはそれで問題になるから止めておくよう忠告するのだった。

「じゃあ、行ってくる」

「気を付けての!」
「帰ってきたらイズナの健診結果とともに連絡しろ。何かあっては困るからな」

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