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マダラちゃんが妊婦さんになるお話のつづき




イズナが生まれた。
それはオレの初めての甥っ子で、兄者の初めての子供だった。


イズナが生まれてから俄かに千手邸は活気づいている。ここ数年みられない程の賑やかさで持って、朝から晩まで祝いの品を持った人々が賑々しく出入りしているのだ。
兄者は火影の仕事そっちのけで、屋敷を訪れる祝い客を、実に幸せそうな締まりのない顔でもてなしている。一方マダラは…といえば兄者や客人たちで賑わう広間には一切顔を出さず、自室でひっそりと過ごしていた。

こういう時に我が物顔で兄者の隣に陣取らないあたり、やはりマダラも場を弁えた常識ある人間なのだと痛感させられる。
あるいは普段、自分を煙たがり締め出していた人間たちの手のひら返しを、鼻で笑っているのだろうか…。

その証拠に、産まれたばかりのイズナはマダラの元でもなく、ましてや接客に勤しむ兄者の元でもなく、広間から離れた自室の縁側で、一人、屋敷の喧騒に耳を傾けているオレの腕の中にあった。

「お前も大変だな…」

オレの腕の中、乳飲み子は何も知らずすやすやと眠っている。
今でこそ大人しくしているが、少し前までは乳を欲しがり大泣きするわ、おしめを汚して大泣きするわで、オレを振り回しまくっていたのだが、一通り騒いで気が済んだのか今では静かなものだ。

「本来ならあの広間の中心に居るべきなのは、お前なのだぞ?」

にもかかわらず、イズナは未だ一族の者にさえ顔を見せていない。
マダラの出産に駆け付けたのも兄者とオレだけで、千手からも、うちはからも、誰も顔を出さなかった。出産のことを一族側に一切伝えていなかったのだから、当たり前といえば当たり前なのだが、ここまでくると最早意地の張り合いのようなものだ。
現に、昼頃になって千手一族を代表して長老格の者が祝いの品を手に、他人行儀な挨拶をしに来ていた。そしてうちは側も、一族を代表してヒカクが祝いの品を他人行儀に恭しく献上して帰って行った。
兄者はそれに対し、笑顔で他の一族に対するのと同じように接していたし、マダラに至ってはどちらにも挨拶をせず、子も見せず…で通していた。

兄者もマダラも、この件に関して「個人の問題」として通すつもりらしい。

子を産んだからといってマダラが兄者の嫁になれるはずもなく、相変わらずマダラは「うちはマダラ」のままだったし、兄者は独り身のままだった。
ただ一つ変わったのは、兄者の戸籍に長男「イズナ」の名が加わったことだ。

子に関する、千手やうちはの微妙な立ち位置に、里内の者たちは気付いているのかいないのか…。ただ純粋に彼等は兄者の慶事を喜んでいる様だった。

そしてオレは…といえば、マダラにイズナを押し付けられてた。
要は「好きにしろ」ということらしい。

広間に連れていくのもよし、千手の者だけに見せるもよし、誰にも会わせず過ごすもよし。

兄者もマダラも、その判断をオレに委ねたのだった。

オレはイズナの産まれたばかりの柔い頬を優しくなで、小さく笑った。
冬に生まれた子供は乾燥肌の者が多いと聞くが、イズナにそれは当てはまらなかったらしい。小さくとも将来を期待させる整った顔立ちに、もっちりと吸い付くような潤いを持った肌理細かい肌は誰に似たのだろう。
瓦間や板間が生まれた時のことをオレは今でも覚えているのだが、正直こんなに可愛くはなかった。

見れば見るほどに愛らしい顔をしたイズナに、オレの我慢は限界に達し、今日で何度目かの頬ずりをするのだった。

「イズナ…今日は一日オレと一緒にいよう」

人の顔色を窺うなど、お前には似合わない。なぁ、イズナ…。


・:*三☆・:*三☆・:*三☆

里中から非公式とはいえイズナの出産を祝われた数日後、ようやく千手邸にいつもの静けさが戻りつつあった。
たまに聞こえる赤子の鳴き声も、違和感なく屋敷に馴染み、それに続いて子をあやす声などが聞こえてくるのだから微笑ましいものだ。
マダラは子育てのため長期休暇を取り、出産以降、イズナとともに屋敷で過ごしている。そして兄者は子が生まれたことで仕事に意欲的に取り組むようになった。
これは最早どこからどう見ても「幸せな家庭」そのものである。

ただし、マダラが「男」であるという点を除けば…だが。

「イズナは本当にマダラが大好きだのぉ…。マダラさえ居ればイズナはいつでも泣き止むのぞ」

マダラの出産を機に、マダラ専属護衛という名のお守り役も解散となり、マダラは一人で子育てに専念している。もともと忍に乳母など存在せず、子供は各家庭で育てられるのが通則であったため、マダラもまたそれに則りイズナの育児に当たっていた。

しかし当然ながらマダラは「うちは」である。
そしてイズナには「うちは」の血が流れている。
オレがマダラの子育てを黙って見ているはずがなかった。

正直に言おう。子育ての半分はオレが引き受けている。

当然だ。マダラ一人に任せて間違いがあったでは済まされない。イズナの人生がかかっているのだ。
子は親を選べない。
かくいうオレも、実父である仏間には思うところがあり、人並みに親子関係で悩んだ時期もあった。オレはマダラのせいでイズナに間違った道を歩んでもらいたくないのだ。だからオレは子育てに積極的に参加した。

もうむしろオレが育てた方がいいとさえ思っている!

とはいえ、やはり子というものは親を無条件に愛するようにできているらしい。イズナも例にもれず、マダラに一番懐いていた。

「さっきまで泣いていたのに、マダラが戻ってきたらもうご機嫌ぞ?俺ではだめなのか、のう、イズナ」

まだ目も開いていないイズナの頭を撫でながら問いかける兄者は、赤子のことをどこまで分かっているのだろうか。今のイズナは基本、嗅覚だけで物事を判断している。よってマダラの匂いに反応してその機嫌も変化するのだ。
マダラに抱かれているときのイズナは落ち着いており、とても幸せそうに見える。
オレに抱かれているときは大抵眠っているときで、起きているときはぐずって泣き出す。とにかくマダラが側にいないと落ち着かないのだ。
そして基本不器用で子育てに向かない兄者は、オレやマダラの隣で「イズナは可愛いのぞ~」と子持ちの大人の男とは思えぬ小花を散らしたような笑顔でイズナをヨイショしているだけだった。当のイズナは、言葉が通じているのかいないのか定かではないが、兄者にヨイショされどこか得意気なのだった。

案外、本当にイズナはイズナの生まれ変わりなのかもしれない…。

だとしたら、兄者とオレは相当苦労することになるだろう。あの可愛い顔をした悪魔は、生前もオレたちを散々苦しめたのだから。

オレがそんなことを考えていると、マダラがイズナの口元に指を持っていくのが見えた。産まれたばかりのイズナは数時間おきに乳を飲む。腹が減っているとき、大抵の赤子がそうであるように、イズナもまた口元にあるものに吸い付く癖があった。

「乳の時間には少し早いが、腹が減っているようだな…」
「なるほど!だから機嫌が悪かったのぞ~」

さて、ここで察しの良い者ならばもうお気付きのことだろうとは思うが、乳母のいないこの屋敷において、いったい誰がイズナに乳をやっているのか。

「よかったのぉ~、お乳の時間ぞ、イズナ~」
「離れろ柱間、顔が近い。イズナに乳がやれねぇだろ…」

そうなのだ…。誰がイズナに乳をやっているのか、それはイズナを産んだ人物。つまり、マダラだ!!

オレはこの瞬間だけはどうにも慣れることが出来ない。
余りに奇怪な光景に、ついついその光景を凝視してしまうほどだ。

なんとマダラは乳が出るのだ…。

そのため、イズナを出産して直ぐ、マダラはイズナに初乳を与えている。
初乳とは赤子にとって大変重要なもので、そのためにオレは出産に際し、マダラの生死は問わないが初乳だけはイズナに与えてもらいたいと真剣に考えていたほどだ。
初乳には赤子が生き延びるうえで必要なあらゆる抗体や成長因子が多く含まれており、赤子の喉や消化器官に免疫力や殺菌力を与える力があるのだ。これは初乳にのみ含まれている成分のため、必ず母親から貰うのが望ましいとされていた。

しかし男であるマダラが乳を出せるのか…。

不安もあったが、無事、イズナに初乳を与えたことを確認しオレはほっと胸を撫で下ろした。

その時はな。

後になって事の異常さに気付き頭を抱えたのだ。
マダラの胸は今も昔も、もちろん妊娠中も真っ平だ。女のような膨らみなど一切ない。にもかかわらず、マダラの胸からは必要に応じて乳が出るらしいのだ!
余りにも不思議で、真っ平なマダラの胸に一心に吸い付くイズナを見つめながら訊ねたことがある。

『本当に乳が出ているのか?』

もし仮にマダラの胸から乳が出ていなかった場合、イズナは栄養を一切摂れていないことになる。そんなことになったらイズナはどうなってしまうのか…。
オレの脳裏に、いつか戦場で見た乳飲み子の最期が過った。

目が落ち窪み、肌の色は土気色にくすみ、泣き声も枯れ果て、やせ細った身体は乾燥し、まるでミイラのようであった。

そんなイズナの姿など見たくはない!
形ばかりの授乳など必要ないのだ。必要なのはイズナの成長に必要な栄養、ただそれだけ!!

オレの必死の形相をどう理解したのか、眉をしかめながらマダラはこういった。

『普段は出ないが、イズナが吸い始めると何かが出てくる感じがする。俺にもその辺りはわからん。だが柱間曰く、乳がでているらしい』
『なぜそこで兄者がでてくる。オレはお前に訊ねているんだぞ』
『柱間もお前と同じことを俺に訊いてきたんだよ!』

そして試しにマダラの乳を吸い、確認したと…。

馬鹿か!!!

いや確実に馬鹿なんだろう。だが今回に限っては良い手だった。この世には、実際に確認せねばならぬこともあるのだ。
そんなこんなで今日もまた、イズナはオレの目の前でマダラの真っ平な乳に吸い付いている。そしてオレはそんなイズナの食事風景を見つめている。
するとマダラから声が上がった。

「あんまりジロジロみるな…」

マダラの言葉にオレは「イズナが食事を摂れているか見ているだけだが?」と口を開いた。するとオレと同じようにイズナの食事風景を見ていた兄者が「いやぁ、あまりにもイズナが美味そうにマダラの乳を吸っておるものだから…ついな」と照れ笑い気味に返していた。

だが明らかに厭らしい目つきをしていたことをオレは知っている。

(おいおい…まさかとは思うが、この展開は…)

兄者の態度に軽く引きつつ、しかしオレは次の子供が早々に生まれるであろうことを予想するのだった。

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