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第二部的な…そうでないような。






「里帰り」という言葉の意味を知っているだろうか?妻が結婚後、初めて実家に帰ることである。
つまりこの場合、マダラが実家に戻るのだ。
もっとはっきりいうのであれば、マダラが腹の子ともども「うちは」へ戻るのだ。

「ちょっとまて!そんな勝手は許さんぞッ」

大きな風呂敷包みを背負った兄者の首根っこをひっ捕まえ、オレは激怒した。

「なぜ兄者までうちはに移り住むのだ!!」



千手邸に上がり込んだヒカクは勝手知ったるなんとやら状態で、特に迷う様子もなく兄者とイズナのいる居間へと歩いて行った。基本、こういった家の構造はどこも似ており、おそらくうちは邸も似たような間取りになっているのだろう。兄者も兄者で、突如、手土産片手に現れたヒカクに驚きはしたものの、笑顔で対応し、挙句「扉間を知らんか?飯の席にまだ現れぬのぞ~」と問いかける始末だ。
実に頭が痛い…!

「オレはここだ!!」

ヒカクから遅れること数十歩、バタバタとらしくない足音を立ててやってきたオレの方にこそ兄者は驚いたようだった。

「どうしたのぞ扉間。お主が慌てるところなど久々にみたぞ…」

本当に頭が痛い!
「オレのことはどうでもいいのだ!」と兄者を一喝し、こうして朝食そっちのけでオレたちはヒカクと向き合うことと相成った。


さすがに、うちはの族長補佐(最早実質的には族長である)を、朝食の並ぶ居間で接待することもためらわれ、一度場所を客間へと移したのだが、それで話の内容が変わるわけでもなし。
兄者を上座に据え、その脇にオレ。そしてそのオレの腕の中にイズナが納まり、話は始まった。

昨日の今日で手土産片手に早朝から千手邸に押しかけたヒカクは、実に慇懃無礼な態度で上座に座る兄者にマダラの里帰りを進言している。

しかしよく考えてみてくれ。
うちは一族は族長であるマダラを締め出し孤立させるに至った経緯がある。だからこそマダラも妊娠をきっかけに千手邸に移り住むことを承諾したのだ。なにより、ここが重要だが、うちは一族はイズナの存在を正式には認めていないのだ。
当然いま、マダラの腹にいる子供とて立場は同じ。

今更しゃしゃり出てくるその理由がまったくもって理解できない。

元々ワケの解からない思考をもつ連中ではあったが、こんなところまでキチガイ染みていたとは…。

ところが兄者はオレとは全く違う認識のもと判断を下そうとしているから、これまた頭が痛い。

「そうだのぉ…思えばマダラは一度もうちはの家に帰っておらんし、今回のつわりは一段と酷い。扉間と俺のローテーションでマダラの面倒を見るとは言っても限界があるしな…」

兄者的にはうちは側から歩み寄ってくれたことが嬉しいのだろう。ヒカクの言葉に、うんうん、と頷き「そうだの~」と合いの手を入れている。
何より兄者の心を掴んだのはヒカクが口にした「里帰り」という言葉だ。

これはうちはが実家であることを正式に認めたことになる。

マダラには子供を連れて帰る場所があるということだ。

(不味いぞ…このままでは、イズナと腹の子がうちはの洗脳をもろに受けてしまうではないかぁあああ!!!!!)

せっかくオレがマダラの影響を受けぬようにと心を砕き、日々イズナの精神衛生を図っているというのに、ここでうちはになど行こうものなら、戻ってきたときには…。

(おおおお…オレのイズナが…う、う、「うちはイズナ」になってしまうではないか!!)

想像するだけで恐ろしい現実に直面し、オレは思わず声を荒げた。

「ダメだ兄者!!許さんぞッ」
「そうはいっても『うちは』はマダラの実家ぞ?帰るなという方がおかしくはないか?」
「兄者は騙されておるのだ!!」

天然で抜けたところのある兄者は人の悪意というものには酷く鈍感だった。それを補うように、オレは人一倍現実主義者で合理主義で、自分でいうのもなんだが打算的な人間だった。

だからこそ分かるのだ…。
うちはは次に生まれてくる子供を自分たちの側で引き取るつもりなのではないか??
イズナの時に意地を張り、出遅れた挙句、「千手イズナ」になったことはうちは一族にとって面白くない話だろう。一人目を千手にくれてやったのだから二人目は…と思っても不思議ではない。

このままでは本当に腹の子を取られかねない!

もしかしたら兄者は平和のために「それでもいい」というかもしれない。千手とうちはの懸け橋になるのなら、構わないというかもしれない。
しかしオレはそんなことは御免こうむる!

生まれてくるのはオレの甥っ子なのだ。なぜオレが大切な甥っ子を、よりによってうちはなんぞにくれてやらねばならないのか!

「兄者は何も分かっておらぬ!!」

イズナを抱きしめ叫ぶオレに、兄者は困ったような視線を向け、諭すように優しく語り掛けてくる。逆にヒカクは相変わらずの無表情でオレを見つめてくる。

「マダラのつわりが酷いのはお主も分かっておるだろう?今はイズナの世話もある。マダラの体調を考えれば、生まれてくる子のためにも、今回は落ち着くまで里帰りさせてやったらどうだろう…のう、扉間」

兄者の言葉に、オレはとうとう俯き黙り込んだ。今回ばかりは兄者が全面的に正しいと頭では分かっていたからだ。
妊婦に過度のストレスは毒だとイズナの時に、オレたちは痛いほど学んでいる。流産などということになったらそれこそ一大事だ。
当然のことだが、つわりが酷く身動きの取れないマダラにイズナの面倒など見られるはずもない。

だが、それならオレが職場にイズナを連れていくという手もある。
一時的に乳母を雇うという手もある。
なんなら千手の者を呼べばいいではないか。

しかしそのどれもが現実的に無理な話なのだということもオレは理解していた。だから何も言えない。
職場にイズナを連れていけば仕事に支障をきたす。
乳母を雇うにしても、オレが難癖をつけてクビにすることは目に見えている。
千手側は未だイズナの存在を黙殺している。「任務」とでも言わなければ手を貸すことはないだろう。

この状況下でうちは側が折れたのは、きっと昨日、病院でマダラの様子を直接目にしたからだろう。打算的な意味だけではなく、マダラの心配をしたのだ。

「うちはは愛情深い一族ぞ?経緯はどうあれ、俺はこの件に関してはマダラの決定に従おうと思う。わかってくれるな、扉間」

兄者の言葉に、オレは小さく頷くことしかできなかった。



それから後は嘘のように事が運ぶのが早かった。

昨日の今日でうちは側はマダラの受け入れ態勢を整え、かつてマダラが住んでいた邸も手入れ済みときた。あとは家主が戻ってくるのを待つばかりということだ。
戦場において、こういった即断即決や電光石火の行動に関し、千手は毎回うちはに後れをとる傾向にあったが、どうやら戦場以外でも千手はうちはに後れをとる傾向にあるようだ。

うちはに比べ人数が多いがために、長老や古株連中の発言力が強すぎるのが原因と考えられる。

ヒカクから里帰りの打診を受け、朝から寝込んでいたマダラもまた行動が早かった。
オレたちが見守る中、ヒカクの言葉を聞き終えたマダラは、「動けるうちに移動する」といって起き出してきたのだ。

これにはさすがにオレも兄者も大慌てた。
ヒカクは何も知らないだろうが、マダラのつわりは大病を疑うほど酷いもので、いくら「今日は比較的体調がいい」と言われても俄かには信じがたい。いつ顔色を悪くし動けなくなるか、まったく見当がつかないのだ。

そんな中、ヒカクだけは実に冷静沈着であった…。

「直近で必要と思われるものは、私が荷をまとめます。マダラ様は身支度を整えてください。もう直、迎えの牛車も到着するでしょう」

そういうとヒカクは、これまた勝手知ったるなんとやら。マダラの部屋の衣装箪笥から迷うことなく着物や装束などを選び取り、広げた風呂敷へ包んでゆく。
どうやら、うちはの族長補佐というのは、族長の身の回りの世話も甲斐甲斐しくこなしていたようだ。マダラの物の仕舞場所も粗方見当がつくのだろう。几帳面な性格ゆえに、物を所定の場所に仕舞うマダラの癖をよく把握していた。
恐らく、生前のイズナも同じようにマダラに仕え、甲斐甲斐しく世話をしていたことだろう。

『兄さん、早く準備して家に帰ろう』

そんな風にマダラに語り掛けながら荷物をまとめるイズナの姿が目に浮かび、オレは居た堪れなくなり、イズナを兄者に預けその場を後にした。



つわりの酷いマダラを案じ、用意された牛車はほどなくして千手邸の門前に到着した。
その光景を渡り廊下から見るともなしに眺めながら、オレは酷い脱力感に苛まれていた。

マダラの里帰りで俄かに活気づく本宅から距離をとり、離れに避難するほどにオレは打ちのめされ精神的に疲弊していたのだ。

(なぜあの時、兄者にイズナを渡してしまったのだ…)

イズナを取り上げられるということは、オレにとって身を引き裂かれることよりも辛いことだったのだと、後になって気づかされた。
この家からイズナがいなくなる。
「千手イズナ」なのだから、最悪、マダラと腹の子が戻ってこなくてもイズナだけは必ず戻ってくるはずなのだが、それでもはっきりと期限の示されないイズナとの別れは苦しく辛く、オレはイズナを兄者に手渡した自分自身を殴ってやりたい気持にさえなった。

自分で自分を殴るなど、馬鹿らしいにも程がある。

分かっていても殴りたくなるほどオレはこの大きすぎる喪失感を前に途方に暮れていた。

まだ幼いイズナにはマダラが必要なのだ。どんなにイズナがオレに懐いていたとしても、オレにマダラの代わりは務まらない。イズナが生まれてから、そのことはもう何度も痛感させられていたというのに、今もまたこうしてオレを苦しめる。

とはいえ、このままイズナを見送らないでいると、また自分自身を殴りたくなってくる。
理論的な思考を手放した暴挙ともいえるそんな行いをオレはオレ自身にさせたくない。
それにイズナの荷物をまとめる手伝いくらいはしなければならないだろう。マダラや兄者の部屋だけでなく、オレの部屋にもイズナのものが置かれている。特にマダラが作ってやった鷹のぬいぐるみはイズナの一番の気に入りだ。

(荷物の中に忘れず入れてやらねば…)

それに肌着とおしめも必要だろう。どれだけあっても困るということはない。重い足を引きずるようにして、オレは自室へと歩き出した。
しかしその時、なんとも不思議な光景がオレの目の前に現れたではないか…。

「兄者?…なんだ、その大きな風呂敷包みは」

オレの問いかけに兄者は満面の笑みで「これは俺の荷物ぞ!」と答え、さらには「留守を頼んだぞ扉間!」といってオレの肩を気安く叩いて歩き出そうとする。

「ちょっとまて!!なぜ兄者が荷物をまとめる必要がある!??どういうことだッ」
「何を言っておるのだ扉間。家族は一緒におらねば!俺もマダラとイズナについていくのぞ」

つまりなにか…このだだっ広い千手邸に、オレ一人で生活していろということか!??

イズナも兄者もいないこの家に、一人きり、取り残されるということか!??

「ちょっとまて!そんな勝手は許さんぞッ」

大きな風呂敷包みを背負った兄者の首根っこをひっ捕まえ、オレは激怒した。当たり前だ。これが怒らずにいられようか!

「なぜ兄者までうちはに移り住むのだ!!」
「か、かぞくは…家族は一緒におらねば!」
「兄者はオレを捨てていくのか!?」

もうオレは兄者の家族ではないのか!?
マダラと子がおれば、兄者はそれでいいのか!?

「とびらま…おぬし、泣いておるのぞ?」
「うるさい!!兄者などもう知らぬ!どこへでも行けッ」

オレは掴んでいた兄者の首根っこを放し、廊下を自室へと駆けていった。

イズナは取り上げられ、そのうえ兄者までいなくなるという…。もう何もかもが悲しくて仕方がない!

自室の真ん中で立ち尽くし、一人涙を拭うオレ。しかしそんなオレに声をかける者があった。兄者だ。

「言い方が少し雑すぎたの…すまん。お主は今でも俺の大切な家族ぞ?だがお前はうちはを嫌っておる。無理に連れていけば怒ると思ってな…」
「イズナの為なら我慢する…っ」
「そうか、では早く荷物をまとめろ。準備ができてないのは、もうお主だけぞ」

笑いながらそういう兄者に、オレは急いで押入れから風呂敷を探し出し、荷物を包んで背負い込むのだった。

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