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お話のつづき。
みんなして相変わらずマダラのお家にいる__(⌒(_'ω' )_
みんなして相変わらずマダラのお家にいる__(⌒(_'ω' )_
うちは邸に引っ越して一カ月が経った。そしてうちは邸で暮らしていくうちに、オレたちにはルールが出来上がっていた。
「オレたち」とは、主に寝たきりのマダラではなく、マダラの邸に出入りするうちは一族の者のことを指す。そのルールは、兄者とオレの部屋に立ち入らないことに始まり、イズナの育て方、そしてこれが一番重要なのだが、週替わりで千手とうちはの食事を交互に出すこと等だった。
八カ月になったイズナは離乳食を1日3回、大人と同じ時間帯に食べるようになった。乳離れも進み、現在ではマダラの乳もたまにしか飲んでいない。一般的に理想的な乳離れは五カ月から1才とされているため、イズナはこの点でも順調に成長し、幼いながらに「マザコン」の危機を脱したようで、オレは大いに安心した。
男であるマダラを捕まえて「マザコン」というのも妙な話だが、いつまでも母にしがみつき、未練がましく乳をせがむようでは忍として心もとない。立場上、公認されてこそいないが、イズナは千手頭領の長男なのだ。誰もが認める男にならねばならない!
とはいえ、実際のところ妊婦であるマダラの乳の出が日に日に悪くなり、離乳食に頼らざるを得ない状況となったことも事実だ。
マダラのあの平たい胸から乳が出るというのは、未だに不思議な話ではあるが、次の子を産む準備のため、マダラの身体も乳の生産を終える決断をしたのだろう…と産婆はいっていた。
そうなってくると、重要性を帯びてくるのがイズナの口にする離乳食だ。
うちは邸に居を移し十日が過ぎた頃、オレはとんでもない事実に気が付き叫び出しそうになった。なんと、うちは邸は、兄者と二人で過ごしていた千手邸よりも快適なのだ!
理由は簡単。
うちはの者が上げ膳据え膳、すべての雑務を完璧にこなしてくれるからだ。
それ以前の千手邸では、人を雇うこともなく、一族から人が使わされることもなく、すべての家事雑務はオレが一手に引き受けていた。
それがうちは邸に居を移してからはどうだ?
あらゆる雑務から解放され、オレは自由だった。
朝起きれば食事が用意され、綺麗に洗濯された服に袖を通し気持ちよく出勤する。仕事に疲れて帰ってこれば温かい風呂と食事が用意され「お疲れ様です」と邸に詰めているうちはの誰かに労われる。マダラ一人で住むには広すぎる邸は隅々まで掃き清められ、手入れされた深緑の庭木は疲れた目にも優しかった。
これもすべてはうちは一族が面子を保つためやっているに過ぎない。すべてはやつら自身が仕組んだことなのだ…と思いはすれども、日々ほだされていったことは否定のしようがなかった。
あの日までは。
あの日…オレは唐突に焼き魚が食いたくなった。そして思い出したのだ。自分が何者であるのかを!!
オレは何をしていたのだろう。
なぜうちはの食事などというものを朝晩律義に食べていたのだろう。
オレは誰だ?ここは何処だ?
オレは千手扉間であり、千手一族の者だ。そして木の葉の里の次期火影と呼び声も高い里長補佐だ。
オレは里の行く末を考えねばならぬ立場にあるのだ。
なのに何故、不穏分子を生み出す可能性のある、危険極まりない一族のもてなしを受け、気を許しているのか。
これでいいのか?
いいや、いいわけがない!!
それまで啜っていた味噌汁の碗を置き、オレは前を向いた。そして己の成すべきことに気が付いたのだ。
「イズナの面倒はオレが見る。食事の世話もオレがしよう。お主はもう下がっていいぞ、ご苦労だったな」
そういうとオレは、オレの目の前でイズナに離乳食を摂らせていた女を下がらせ、自らの食事を中断し手ずからイズナに食事を摂らせた。
これには兄者も女も酷く驚いた顔をしていたが、もともと千手邸ではこれが普通だったのだ。日々の快適さや、仕事に追われて、オレは大切なことを忘れていた。
「これからはイズナの離乳食はオレが作る」
オレの言葉にとうとう兄者から待ったがかかった。
「どういうことぞ!?なにか気に入らぬことでもあったのか、扉間」
兄者の言葉に、オレは真っ直ぐ兄者を見据えて問いかけた。
「兄者は千手の飯が恋しいとは思わぬのか。うちはの飯は確かに美味い。だがオレたちは千手の飯で育ってきたのだ。ようはそういうことだ…」
オレは離乳食の入った小さな碗の中に見つけた小さな肉をよけながら、イズナの口に入るだけの少量の粥を匙に救い、心の中でイズナに詫びた。
そしてイズナを大切だといいながら、日々の忙しさに負け、イズナへの配慮を怠っていた自分を恥じた。
オレの言葉に兄者も飯をかきこむ手を止めて「そういえば、千手の煮物が恋しいな…。うちはの食事も好きだが、久々にお主の作った煮しめが食いたいのぞ」とオレを見ていった。
その言葉にオレは小さく頷きながら、
「明日からはオレが食事を作ろう。うちはの物ばかりではイズナも寂しかろう」
そんなやり取りの最中も、ひとりでお座りが出来るようになったイズナは、うちはが用意した子供用の小さな座布団に座り、オレが差し出す匙を口に含み、幼い頬をもごもごと膨らませている。座布団は特別に作られたものなのだろう。使われている生地は上等のもので、中に詰められている綿もイズナの座り心地がいいように形が整えられていた。
それを見てオレの中で荒ぶる気持ちが治まっていく。
オレはイズナを大切にしているし、イズナの将来を案じればこそ、うちはの血を否定したくて仕方がなかった。もちろん今だってそうだ。
だが分かってしまったのだ。
うちは一族は表面的にはどうであれ、イズナの誕生を心から喜んでいたのだと。
入れ替わり立ち代わり邸に人がやってくるのも、皆、イズナ目当てだったのだと。
思えば、イズナが身に付けている幼児服もどこか小洒落たものだったし、この十日間で、イズナが同じ服に袖を通したのを見たことがなかった。
『うちはは愛情深い一族ぞ』
何度も兄者から聞かされ、耳にタコができたと思っていた言葉が蘇る。
千手一族より絶対的に人数の面で劣るうちは一族は、代々子供を一族ぐるみで大切に育ててきたのだろう。
(随分と我慢させてしまったようだな…)
病院で初めてイズナを見た時のヒカクの様子といい、本当なら一族を上げて正式に誕生を祝いたいところなのだろう。兄者もマダラも、つくづく罪なことをしたものだ。
だがこれでようやくマダラが里帰りした理由にも得心がいった。
なんだかんだ言いつつ、あの男はやはり「族長」なのだ。まぁ、もっとも、その族長を拒み締め出したのは、当のうちは一族なのだが、そんな一族でもマダラにとっては大切なものであるようだ。
子供たちの顔くらいは見せてやろう…と思ったのだろう。
この分では、腹の子が生まれるまでここに留まることになりそうだ。
今までのオレなら、マダラと対立してでも状態が安定したと同時に千手の家にイズナと兄者、それにマダラを連れ帰るところだ。だが最早、オレは以前のオレではなかった。
(腹を括るより他ないか…)
能天気な兄者はおそらくマダラの心情を察してはいないだろう。
だがそうなると、やはりオレにも譲れないものがある。マダラにとって大切な一族も、オレにとっては危険物なのだ。そしてオレは何が何でもうちはの呪われた血からイズナを守りたいと思っている。
イズナの口に入れる物にも気を遣うくらいに、オレは「うちは」から遠ざけてきたのだ。
だがここで生活する以上、それは無理というものだ。
そしてなにより、イズナには千手とうちは、両方の血が流れており、これは否定しようのない事実なのだ。
オレは一つ溜息をつき、一週間交代で手を打とう…と自分に言い聞かせた。
千手の食事が千手の身体に馴染むように、うちはの食事もうちはの身体に馴染むように長い歴史の中で出来上がってきたものなのだろう。ならば「造血」はイズナにとっても避けては通れないものなのかもしれない。
こうしてオレは一週間交代で、千手の食事とうちはの食事の両方をイズナの口に入れることをヒカクに提案し、ヒカクもそれを受け入れたのだった。
この献立に幼いイズナが喜んだかどうかは確認のしようもないが、日々ご機嫌で食事を摂っているところを見ると、今までよりも多種多様な食生活を気に入っているのだろう。
そしてもう一人、この制度に喜んだ意外な人間がいた。それはマダラだ。
イズナの時には真夜中に「肉が食いたい!」と叫びだし手を焼かせたマダラだったが、今回はどうやら野菜中心の食事が口に合うらしく、オレの作った飯を有難がって食っていた。
その姿にオレは只ならぬものを感じるのだが…、さて、一体どんな赤子が生まれてくるのやら…。
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